有明湾の魚といえば「ムツゴロウ」が有名ですが、これが食べられる魚とはあまり知られていません。日本一の干潟を持つ有明湾は、そんなムツゴロウを始めとした個性的な魚種の宝庫です。
肥前の魚を楽しむならばおすすめの店が佐賀市にあります。JR佐賀駅からバスで10分ほど。佐賀城址近くの水ヶ江と呼ばれる場所で続く「古川料理店」です。歴史があり、今のご主人で5代目になります。
佐賀の繁華街・白山から離れているものの、城の近くという立地はいいものです。飲みに行く前に、鍋島直正像にご挨拶。明治維新150周年で沸いた佐賀城は、様々な施設のリニューアルや復元が行われ、見どころがたくさんあります。
鍋島直正といえば日本初の反射炉を完成させるなど、産業に力を入れたひとり。蒸気機関の研究にも取り組み、日本初の汽車の模型を走らせた記録が残っています。
さぁ、日も傾いてきました。佐賀城本丸(採掘調査や図面から復元)の45mもある廊下や320畳の大広間を散策し、だいぶお腹も空いてきました。そして、とってものどが渇いています。
ご夫婦で切り盛りする「ふるかわ(古川料理店)」。もともと宴会などを中心にやっていた和食店でしたが、2002年に一階の厨房前にカウンター席を設け、割烹としての営業も開始。二階座敷と一階カウンター8席で営業中です。
この界隈で美味しい魚を食べるならココ!と太鼓判をおすご近所さんが多く、8席のカウンターは常連さんの姿があります。宴会で利用した行政や企業関係者も「古川」のファンになり、その後1人で飲みに来ることもあるそうです。
佐賀といえば九州にあって日本酒造りが盛んな地域。鍋島や天吹など東京でも馴染みのある銘柄や、地元で長く愛される酒蔵のこだわりの一本が用意されています。
あわせる魚はこちら。このために「古川」に来たのです。ホワイトボードにびっしりと並ぶ魚介類は、どれも魅力的なものばかり。アゲマキガイや有明アサリ、ひらすやクチゾコなどワクワクする名前が並びます。
のどぐろやアラカブと朱色の魚が並び、右にはアラマキやシッタカも出番待ち。
「左がアコウで右がカワハギ、佐賀は様々な魚があがるんです」と、ご主人が丁寧に教えてくれます。
乾杯はいつもビールから…とは言っていますが、こんな魅力的なお酒を前にして、今日だけは最初から日本酒です。予算にあわせて料理やお酒を組み立ててくれます。例えば、「3,500円くらいで」、なんて頼み方で。お酒は90mlからお願いできて300円台。料理も単品500円以下が多いので、あれこれ食べて飲んでも予想よりも手頃に収まることでしょう。
鍋島に天吹、佐賀の美味しいお酒がベテランご主人のチョイスで揃っています。日本酒好きも楽しめること間違いありません。
先付を肴にして、鍋島純米辛口で乾杯です。
知られざる有明湾の幸といえば、竹崎カニです。ガザミ(ワタリガニ)で、かつては日本各地の湾でとれたものの、現在はその数は少ないです。有明湾は貴重な国内ワタリガニの産地です。
30センチ近くに成長した大きな竹崎カニ。平たく見える甲羅も、めくってみれば大量の味噌が詰まっています。寒い季節の雌カニはコクが強く酒の肴にぴったりなのだと、同席した佐賀のノンベエさん。ささっと塩ゆでしただけなのに、甘く深い味わいが想像以上に口いっぱい広がります。
有明アサリは豪快にそのまま茹でるだけ。大ぶりかつ味が濃く、出汁や味噌を使わずそのまま貝の旨味だけで十分におつまみとなります。
ついに来ました、ムツゴロウ。煮付けや味噌汁で食べるのが一般的で、昔から家庭料理の食材として定番だったそう。見かけによらず上品な味で、独特の旨味があります。鱗はなく、骨はイワシより少し硬い程度。地元の方は頭から食べるそうですが、身をちびちび摘んで食べるのもお酒のお供にぴったりです。
頭が一般的なシャコよりも大きく、シャベルのような爪をもつ穴シャコ。これもまた有明湾の隠れた名物です。泥抜きを丁寧にして殻ごと天ぷらに。赤紫色になる他のシャコと違い、海老のようなきれいな朱色になります。これにカボスなどを絞って塩をつけていただきます。身離れよくホクホクです。
ワラスボ。有明湾の干潟にはまだまだ全国的には知られていない魚がたくさんいます。眼がなく歯が大きい、浜辺で見つけたら腰を抜かしそうな見た目ですが、これが地元のノンベエの間で重宝されています。
煮たり焼いたり、干したらそのままかじれる酒のアテです。
炙った干しワラスボを入れた猪口にとびきり燗を注ぎ込めば、最高の一杯「すぼ酒」になります。ひれ酒、骨酒、似たような飲み方は多々ありますが、そのどれとも違う甘く深くコクのある味がします。二杯目、三杯目とつぎ酒をしても変わらぬ味に、「おつまみ要らず、すぼ酒あれば幸せ」なんて話しがでるほどです。
有明湾の魚を中心に地元の美味しい食べ方を教えてくれる「古川料理店」。佐賀の魅力を”食と酒”で再発見できる素敵のお店です!
切り盛りするご主人と女将さん。とても気さくなお二人や常連さんのおかげで楽しい夜を過ごせました。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材協力/九州旅客鉄道株式会社)
古川料理店
0952-23-4259
佐賀県佐賀市水ヶ江2-16-53
18:00~23:00(水定休)
予算3,000円