宇和島「ほづみ亭」 宇和海の磯料理に舌鼓をうつ。ここで飲むことが旅の目的になる。

宇和島「ほづみ亭」 宇和海の磯料理に舌鼓をうつ。ここで飲むことが旅の目的になる。

2018年6月1日

東京からおよそ900km。愛媛県南予地方の中心都市・宇和島。山と海とが入り組むリアス式海岸が続く宇和海に面し、対岸は豊後水道を挟み大分県です。宇和島城を中心とした城下町で、歴代藩主だった伊達家ゆかりの史跡も多く、歴史、自然、文化が融合した魅力を持っています。

愛媛県の中心地である松山からは、険しい山岳地帯とに挟まれ、海岸線も山際が海までせり出した厳しい環境が続きます。それによって、同じ県でも松山と宇和島は文化の違いが感じられます。

そして、その風土が生み出した海・里・山の幸は、あえて足を伸ばして行く価値を十分に感じます。

宇和島へは、鉄道ならば松山から予讃線の特急宇和海で1時間20分ほど。高知からも四万十川沿いを走るローカル線・予土線が繋いでいますが、こちらは本数が少なくなかなか不便。それでも、新幹線をモチーフにしたホビートレインやトロッコ列車など個性的な列車が走り、観光客に人気です。

宇和海沿いの街・八幡浜市から大分県臼杵までフェリーが出ているので、あえて九州と一緒に巡るというのも楽しそうです。

特急列車の発着時以外は静かでゆっくりとした時間が流れるコンコース。

オレンジの瓦と、ビルの3階を超えるほど伸びたヤシの木が南国リゾートのようです。JR宇和島駅は、駅直結のJRホテルクレメントと一体化しています。

港湾のわずかな平地に行政や医療、繁華街、産業施設が集中していて、最近話題のコンパクトシティを地で行く宇和島市。工業はわずかで、主要産業は漁業とそれに付随した食品加工がメイン。まさに、魚の街というわけです。

「ほづみ亭」は創業80余年の老舗の大衆割烹。宇和島の人々に愛され続ける地場密着のお店です。宇和島城の堀として整備された辰野川に接した風情ある店構えです。

いらっしゃい!元気な板前さんの声に招かれ、魚がずらりと顔を並べるカウンターへ。板場に向いたカウンター、それにテーブル席と宴会間というつくりです。

先客の常連さんに軽く会釈して、さぁ、幸せな時間のはじまりです。

大皿に盛られた煮たきものに誘われます。

樽生は、四国唯一の大手ビール工場をかまえるアサヒのスーパードライ。瓶では大手2社が加わります。

そして、なんといっても注目は、西日本最高峰を誇る石槌山に抱かれた水系と歴史が生み出す地酒の数々。城川郷(西予市城川町)や元見屋酒店の開明(宇和町)、西本酒造の虎の尾(宇和島市三間町)など、都心ではみかけることの少ないお酒が揃っています。

乾杯は、西条で醸造された愛媛のビール、アサヒスーパードライ。

先付がニナ貝(尻高・バテイラ)とは恐れ入りました。それもかなりの大物です。

ほどよく酒と醤油で煮込まれ、コクのある汁を蓄えています。ビールの肴にぴったり。九州でもよく食べられている貝で、円錐状の形状が独特です。

漁によって左右されるその日の品書き。これぞ港町で飲む醍醐味です。おすすめに白魚踊りに生のナガスクジラ。刺身はほうたれ、うつぼ、カワハギにふぐ、そして深浦のかつおと、もう文字だけで生唾もの。

煮付けの「ほご」は、カサゴのこと。こずなは甘鯛(グジ)のこと。魚の呼び名を眺め、料理人さんに聞くことだって旅の楽しさです。

もてなしの心あふれた板長に料理を伺い、さらに大皿に並ぶきびなごやイカ、海老が誘惑をしてくる…。何を食べようか、これほど悩むことはなかなかありません。

定番料理のメニューを開けば、さらにずらりと100種類近い料理が選択肢にはいり目がまわりそう。ふかの湯ざらしに鯛そうめん。うむむ。

なにはともあれ、まずはお刺身から始めよう。そうして頼んだおまかせの刺盛り。あれもこれもと悩んでいたら、板前さんが「じゃあ、まかせて」と包丁を握ってくれました。

かんぱち炙りにほうたれ、深浦のかつおに鯛。濃口醤油にちょんとつけ、新鮮な宇和海の魚を口に運べば、幸せのおいしさが広がります。ここまで来た苦労をすべてプラスにしてくれる絶品揃い。

地酒「野武士」をもらって、きゅっと一献。キレのある味の中に米の甘みが優しく広がり、魚と相性のよいお酒です。

美味しい魚があれば、むろんお酒は進むもの。お燗酒で1合もらって、おつまみに自家製のらっきょうをあわせます。地元産のものをお店で漬け、魚の箸休めにぴったりな味です。

宇和島は天然・養殖ともに水揚げされる鯛の一大産地。縦に20cmをこえる巨大な鯛のかぶとが焼き上がりました。ここまで大きいと食べごたえも十分すぎるほどですが、鯛のかぶとが大好物。あとはちびりちびりと摘みつつ、お酒を重ねていきましょう。

鯛めしもいいけれど、酒の肴は塩焼きに限ります。

柑橘の産地、地元の橙色のかぼすを付けてくれました。熱々の鯛の皮にしぼると、じゅっと音をたて脂と酸味の香りが広がります。

お酒、もう一本つけてください。さて、そろそろカメラを置いていいかな。だってもう、幸せすぎるのですから。

板長や女将さん、そして常連の皆さんとの楽しい会話が盛り上がり、お酒も進みすっかりいい気分。

ごちそうさま。

誤記を訂正いたしました(2018-06-05)

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

ほづみ亭
0895-25-6590
愛媛県宇和島市新町2-3-8
17:00~22:30(昼営業あり・不定休)
予算3,500円