ここ数年は「大衆酒場ブーム」と言われています。これまでアルコールはおまけ扱いだった大手のチェーン飲食店も続々と「ちょい飲み」に参入しました。
ブームによって、これまで老舗の酒場が持っていたムードとは異なる、ときにはコンビニ的だったり、ときにはコスパ徹底重視だったり、外飲みの選択肢が広がったのは良いことだと思います。
ただ、やっぱり「大衆酒場」と言うならば、どうしても駅前で何十年と続いている家族経営のお店のイメージが筆者には強いです。
大衆酒場ブームなのだから、個性で広げずに直球勝負で「ザ・酒場」みたいなお店にも期待したいところ。例えばここ「大衆酒場シナトラ」は、まさに真ん真ん中を突き進む王道スタイル。幅広い年齢層に受け入れられる、まさしく酒場の姿があります。
目黒駅前に一号店がオープンし、その後2017年の夏、自由が丘に2号店が登場。今回は、この自由が丘店からシナトラの魅力をご紹介してまいります。
自由が丘はセレクトショップやカフェが建ち並ぶハイセンスな街、なんていうイメージが一般的ですが、筆者には「銘店多き酒飲みの街」です。学生時代、大井町線が通学路線でしたので、昔からよく歩いていました。
昔、自由が丘に大井町線の車庫があった場所がいつのまにか東急グループが運営する「トレインチ」という商業施設に生まれ変わりました。電車の車庫跡地だから「トレインち」、こういうセンス、結構好き。
ここ「トレインチ自由が丘」が8月にリニューアル。「酒場シナトラ」は8月3日にオープンしました。内装は新しいお店なのにどこか懐かしさが漂う。それでいて、舞台セットのような作られた昭和ではなく、パリッとした雰囲気が印象的。
L字のカウンターは一人・二人組みのお客さんが楽しそうに笑っています。予約なしではふらりと飲みに行けないほどの人気店で、カウンターを指名して予約を取る人もいるのだそう。
解説もそこそこに、まずは残暑で乾いた喉を潤すべく生ビール。銘柄はキリン一番搾りですが、グラスは特注の薄針、レトロポップなシナトラの文字が可愛い。状態抜群のこだわりの一杯で乾杯!
手元にメニューがありますが、カウンター上に張り出されているメニューを眺めるほうが、あれこれ食べたくなるのが不思議。一番搾り生よりも先に緑茶ハイがあるなど、店の推しが垣間見えます。
瓶ビールはキリンクラシックラガーで大びん780円、サワーはレモン、キウイなどで580円。サワー類が割高に見えますが実は一杯は試してほしい特別なもの。(後述)
フードの顔は牛刺から始まります。煮穴子の卵焼きなど、名前でくすぐられるものばかり。
日替わりでは刺身、野菜などその日の仕入れで変化するものが中心。
飴色の空間で飲むと固くなった心が柔らかくなっていくようで、さらに瓶ビールを注ぎ合えばリラックスして語り合えるというもの。
酒場にはラガービールがよく似合います。生ビールのグラスだけでなく、ビアタンまで特注です。よく冷えた心地よい苦味と店の雰囲気、酒場好きでよかったと思う瞬間。
なんと、これがレモンサワー。広島県産の無農薬ノーワックスレモンを使用し、皮ごとウォッカにいれてソーダでビルドしたもの。まるでバーのこだわりカクテルのよう。甲類ベースの定番のレモンサワーはもちろん大好物ですが、これはまったく別物の美味しさがあります。
名物の肉豆腐。カウンターに埋め込まれた大鍋でぐつぐつ煮込まれています。
うんちく不要で素直に美味しい。でも、あまりに解説しないと”ただ飲むだけの人”になっちゃうので… 味の染み込み具合が絶妙で、見た目ほど濃くはなく、喉を通ったあとのすっきりした肉の旨味が微かに感じられ、その余韻がお酒を吸い寄せるような一品です。
真鯛のお造り(780円)。白身魚はちゃんとした目利きのもとだと少し寝かした方が美味しくなることがありますが、まさしくこれがそう。予め醤油で風味をつけて供されます。
風味だけでなく茶葉の青味や爽やかな後味までしっかり感じられる緑茶ハイ。茶袋ごと沈んでいて、飲むごとにお茶の旨味が増していきます。
モモ、タン、ハツの牛刺3点。低温調理が実現した牛刺。3ケタの金額で食べられるのも嬉しいし、何より赤身肉の美味しさを再発見できて、毎度リピートオーダーしたい一皿。
醤油が薄く塗られていますので、あとは好みで山葵をそえていただきます。口の熱で脂が溶け広がるような感覚があり、思わず頷いてしまいます。
よい料理を納得できる価格で提供する。酒場に求められる活気とくつろぎのバランス。お酒が好きというたったひとつの共通点があれば、みんなにオススメできる万能な酒場です。とくに親子酒なんていうシチュエーションがぴったりでしょう。
ごちそうさま。
さて、トレインチ内で「シナトラ」と同じ会社が運営する洋業態も合わせて取材をしてきましたので、こちらもご紹介します。
Osteria & Bar GONZO
トレインチ自由が丘内のふらっと入れるカジュアルイタリアン「Osteria & Bar GONZO」。シナトラと対照的なオシャレで、いかにも東急沿線らしい雰囲気の外観。
店内はテーブル席のほか、こちらにもコの字カウンターがあり、厨房を取り囲むように配されています。イタリアンだけど、どこか酒場的なニュアンスが感じられるのがおもしろい。
ムーディーで、二軒目や待ち合わせ場所として使うのにもぴったり。しっかり食べるだけでなく、ちょい飲みに使えるので梯子グセがある筆者にぴったり(笑)
オリジナルのカクテル「リモーネ」やサングリアが飲みたい。一杯目のビールはハートランドの生が用意されています。
ワインはイタリアを中心にニューワールドのグラスが揃うほか、ホドルワインも充実しています。
フードは3ケタから千円前半がほとんどで、気軽に一杯・一品で飲みたいときに嬉しい。それでいて、3種のジビエや海老とズッキーニのラビオリなど、お腹に余裕があれば食べてみたい名前がずらり。
ランブレドットは、イタリアの牛もつ煮込みのこと。塩、胡椒のほか香草でくつくつ煮込んだもので、ココットにはいって登場。
イタリアで飲んだことはありませんが、きっと向こうの酒場はこんな感じなのでしょう。さて、もう一軒ハシゴしましょうか。自由が丘は、シチュエーションによって使い分けできるお店が様々揃っていますから。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見なゆ 取材協力/キリンビール株式会社)
酒場 シナトラ 自由が丘店
050-5594-2975
東京都世田谷区奥沢5-42-3 トレインチ自由が丘
17:00〜24:00(ランチ営業あり・無休)
予算3,000円