東海道新幹線が開業間近の1963年(昭和38年)、九州からやってきた大坪氏が名古屋市熱田に開いた鶏料理を看板に掲げた食堂「風来坊」。名古屋にやってきた大坪氏のスタイルがそのまま店名です。
現在は名古屋を代表するご当地料理となった手羽先は、ここから始まりました。当初は鳥の半身焼きが主力でしたが、その甘タレを手羽の唐揚げにつけたところ好評となり、瞬く間に人気店へ。弟子が独立を続け、暖簾分け方式で現在80店舗まで広がり、まさに中京圏を代表する飲食チェーンとなりました。
フランチャイズ方式ではなく、技術継承による個人店型の店舗展開、つまりは暖簾分けで増えているので、店それぞれに様々な個性があり、あちこちにあっても、どれもが大衆酒場のいい味がでているのです。
風来坊・新岐阜店は、そんな暖簾分けのなかでも歴史のある店舗です。店名の新岐阜はむかしの名鉄の駅名から。いまでこそ名鉄岐阜駅と名称がかわりましたが、路面電車も走っていた街の中心街・新岐阜の名残が残る貴重なお店です。
40席以上ある大箱酒場は、平日の20時頃は満員御礼状態。カウンターもぎっちりで、皆さん手羽先を頬張りながら生ビールをぐっと口に当てています。客層はほぼ地元の人で、テイクアウトの人も含めて相当な活気があります。
袖看板にある楕円の”S★PPORO”が物語るとおり、長くサッポロを扱う店。メニューには復刻版とはいえ、「男は黙ってサッポロビール」の銘キャッチフレーズが書かれています。中といっても昔なかせらの大きな中ジョッキ。生黒ラベルのほか赤星とヱビスもあり。日本酒は岐阜の地酒がいろいろ。醴泉に三千盛、天領など。
女も黙ってサッポロビール(中びん500円・以下外税)。岐阜で貴重な赤星。今年140年目を迎えた日本最古の加熱処理ビールで乾杯。
定番の手羽先が一番人気ですが、サイドメニューはほとんどが日替わり扱いで常連さんを飽きさせません。刺身の種類が多いのは意外でしょう。フードの価格は500円前後と大衆酒場の中心的なもの。ですがボリュームがたっぷりなので、数人でシェアすればとってもお得。一人だと手羽先メインで、あとは軽く2品も頼めば満腹です。個人酒場は良心の塊です。
自家製のポテトサラダは、岐阜のご当地ハム入り。ねっとり粘度のあるポテトは、これとビールだけで手羽先が揚がるまで十分に繋いでくれます。
生まぐろ刺身は、常連さんたちの注文率の多い人気の品。分厚く濃厚、和ら麦(麦焼酎)のお湯割りにぴったりです。
甘辛いタレが隅々まで染み込んで、さらに追い掛けで塩コショウをふった手羽先(450円)。分厚く身がたっぷりずっしり。二度揚げや味付け、サイズまで創業者のこだわりそのままと聞きます。ぱりっとした皮と肉汁は、もうたまらない。
調理に10分ほど時間がかかるので、着席と同時に「手羽先?」と聞かれるのですが、それだけみんなこれを頼みます。名古屋の人なら誰でもできるという、骨と身を一瞬に分離して食す技は、手元の「食べ方マニュアル」を読めば誰でもマスターできそう。
創業当初の名物メニュー、手羽の半身揚げ焼き・ターザン焼き(880円)も、グループならお試しあれ。
隣のスーツ姿のお兄さんは、銀杏つまみに手羽先へ、大生をぐーっと飲んで30分1本勝負でした。テーブル席で宴会をするお父さんたちは、手羽先やどて味噌串かつを肴にガハハと大きく笑っています。
賑やかな大箱なのに、お店の人の丁寧な対応と気配り上手なところも心地良い。流行るお店には理由があります。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
風来坊 新岐阜店
058-262-2534
岐阜県岐阜市長住町1-10
17:00~24:00(月定休 ※月祝の場合は火休)
予算2,500円