岐阜県各務原市の鵜沼には、一度は訪ねておきたいとん焼きの名店があります。店の名は「つたや」。昭和27年創業、4代目が守る老舗暖簾です。焼台を囲むコの字カウンターを配した、年季の入った木造戸建てで味わう、とん焼、濃厚赤味噌おでんをご紹介します。
名古屋から特急で訪ねたい名酒場
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鵜沼(うぬま)は、 濃尾平野の北端、各務原(かかみがはら)市にある木曽川沿いの町です。古くからの交通の要衝で、江戸時代は中山道で日本橋から数えてから数えて52番目の宿場町・鵜沼宿として栄えてきました。
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近代に入ると高山本線と名鉄犬山線、各務原線が開通しターミナル駅がある町に発展。宅地化が進んでいます。
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大垣、岐阜、または美濃太田方面からはJR高山本線でアクセス。
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名古屋からは、名鉄犬山線の特急が便利です。名鉄名古屋から新鵜沼駅まで30分。新鵜沼からお店は5分ほど。
沿線には犬山城やモンキーパーク、博物館明治村などの観光地や名所も近くにありますが、「つたや」を目指すだけでも酒場好きならば十分に足りしめると思います。
凛々しい酒場で、優しい接客
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JR鵜沼駅前にある、凛々しい店構えの「つたや」。随所に手入れがされていますが、木造2階建ての酒場らしい酒場です。
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16時になると、ご主人が暖簾を掲げ、これが営業中のサイン。店の前で待っていたお客さんが次々と吸い込まれていきます。
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店の中央にどんと焼き場が鎮座し、そこが大将の仕事場です。脂の強い豚モツを炎で焼き落とすように仕上げていくため頻繁に火柱が上がっています。もうもうとした煙は強い換気に吸い込まれていきますが、店内の空気は少し白いです。
職人気質の硬派な店ではあるものの、接客はとても丁寧で、とくに女将さんの細かな気遣いは特筆すべき点です。そのためか、女性客の姿も少なからずあります。老若男女、会社帰りのグループも老後を楽しむ黒帯ノンベエさんも、皆さんとても楽しそうにとん焼を楽しんでいる様子が伝わってきます。
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ベンチタイプの長椅子を配した大きなコの字のカウンターが、焼台を囲むように店内外周を囲んでいます。端の席以外は椅子をこえて座ることになります。
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店の渋さに浸ったところで、香りに誘われビールを注文。生樽はアサヒスーパードライ、瓶ではアサヒスーパードライと、キリンクラシックラガー(各580円)が選べます。
それでは乾杯。
品書き
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品書きは壁面に貼られたポスターや短冊で確認を。瓶ビール(580円)のほか、日本酒の白雪を推している様子。樽ハイ倶楽部のチューハイ(400円)やハイボールもあります。
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串は1本120円から。油あぶら、きも焼、心ぞう焼、皮つき、頭かしら、珍味、豚焼など、独特な部位の名称がついています。おでんは120円。
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焼肉(ほほにく)、いかだ(ネギ)、舌たん、ねぎまは各190円。串は1本単位で注文可能です。サイドメニューで、トマト(380円)ときゅうり(塩240円・味噌270円)があります。
午後4時に人々が並ぶ理由、それは数量わずかな珍味が目的
珍味・かしら
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串はその日使う分のみを仕入れるという、徹底した鮮度へのこだわりを半世紀以上続けているそう。そのため、品切れになるものも多くあります。
かしらは「つたや」では茹でたものを生姜醤油で食べるのが店のおきまり。茹で具合が絶妙で、噛むほどに肉汁が滲み出て、また非常に上品な旨味が広がります。それを、生姜醤油で引き締め、より一層あとひく味に仕上げています。
味噌おでんはどろっと濃厚
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どて焼きと玉子。八丁味噌のコクが秀逸な甘い汁で「こぷっ、こぷっ」と音を立て煮られたおでん。すべて茶色く染まり、見るからに美味しい一品です。
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これほど浸かった玉子はなかなか食べたことがありません。串が刺さっているのは、中京地域のおでんの特徴のひとつです。
トマト
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お酒を進ませる濃い味の豚モツやおでんには、箸休めが必要です。これにも串がついてきますが、串の本数は伝票代わりとなっています。
珍味・五目
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五目は、かしらや膵臓、じょうみゃく、みのなどを1本の串に刺した、あれこれ食べたい人にぴったり。
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分業になっていて、数名いるご家族の皆さんが次々とお皿に持ってだしてくれるため、あっという間に注文した品が揃いました。これを前にして幸せを感じない酒場好きなんていませんね。
酒(400円)
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普通酒をチロリでつけて、コップと一緒にさっとだす。カッコつけないこのスタイルが素敵です。お酒は白雪、伊丹の老舗清酒企業・小西酒造の銘酒です。
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16時の暖簾がかかるタイミングに間に合わなくとも、間違いなく酒場好きならば楽しめるピシっとした酒場。一度は訪ねる価値ある1軒です。
明朗会計で、ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | とん焼つたや |
住所 | 岐阜県各務原市鵜沼山崎町3-146-2 |
営業時間 | 16:00〜22:00(日定休) |
開業年 | 1952年 |