武蔵小山という街は素敵な酒場が多いのですが、「歴史あるところに名酒場あり」といういつもの公式に当てはめようとしても、実はそうではないのです。東急目黒線の急行も停車する駅ではありますが、ターミナル駅でもなく、特別地域性からみたら品川区によくある東急沿線と変わらない条件なのです。もともと三業地だった西小山のほうが飲み屋街は発展していてもおかしくないのに、なぜか、目黒線イチの飲み屋街は武蔵小山なのです。
ここが今のようなベッドタウンと東京最大の全長800mのアーケード街「パルム」ができて賑やかになったのは戦後のことだそうです。となると、駅前の路地裏の細い路地が入り組む飲み屋街ができたのも、街そのものが形成されていったのも同じ時期だったことになります。歴史が長い…わけでもない。ベッドタウンの酒場にしてはディープすぎるのですが、なぜここに闇市が生まれたのか、その理由についてはもう少し飲み歩きながら調査していきたいと思います。
さて、最初から大きく話がそれてしまいましたが、そんな駅前裏路地商店街、正式には「りゅえる」というのですが、ここ一帯は現在再開発の真っ最中。お昼から立ち飲みできる酒場や飲兵衛でよなよな盛り上がる寿司店など、それはもう飲兵衛には天国のような世界がありました。商業複合型の高層マンションができるのはもちろん歓迎ですが、酒場好きとしてはやはり寂しい。
そんな武蔵小山でぜひ立ち寄ってみて欲しいお店がありますのでご紹介します。その名は「長平」。武蔵小山の人気立ち飲み酒場で働いていた方が始めたお店で、まさに酒場好きの気持ちを鷲掴みする空間です。
一階のカウンターに9席、二階にも10席ほどありますが、とてもコンパクトなお店。それなのに、一度入ると長居したくなる不思議なくつろぎムードがここにはあります。
さて、飲み物を。瓶ビールは赤星もあり。武蔵小山はハイサワーの博水社お膝元の街、当然ハイサワーも置いてあります。
悩むことなく、ここの一杯目には生ビール。サッポロ黒ラベルです。グラスの洗い方にこだわりがあり、とっても美しい。お店の方が飲兵衛なので、自分が飲みたくなるものを提供しようという考えが強いようです。キレイなディスペンサーから出てくる最高の黒ラベルで乾杯!
毎日変わるフードメニュー。仕入れはオーナーご自身が市場に仕入れに行かれています。それにしてもバラエティにとんだ品書きは、見ているだけでビールが進みます。
キンメの煮付けなど手間のかかるものから、ちょいと摘むのに最適な肴までいろいろ。20席に満たない個人酒場とは思えない刺身の種類の多さも気になります。のれそれ、殻付きカキなどじっくり腰を据えて飲みたくなります。
お通しは特にないので、ささっと立ち飲み感覚、バーのような使い方をされる方も多いのだそう。500円で黒板左側の列のフードを3種類好きなものを食べられるおつまみ3点セットは特にお得。カニミソ豆腐、このわた、ホッキサラダをチョイス。これはお酒が進むこと間違いなし!
壁にはずらりとキンミヤ焼酎が並びます。「4合瓶にすればいいのに、マニアックな5合にしちゃったから、仕入れ割高で」と明るく笑いながら話すお店のお姉さん。5合で2,000円というので確かに安い!常連さんはみんなキンミヤいれて、あとはハイサワーやホッピーで飲んでいくから千円未満で帰られるお客さんもいらっしゃるとか。
た、確かに…でも、あんまり安く飲まずにお店にも貢献しなくちゃですよ!(笑)
このわたなどを摘んでいるとビールから日本酒へいきたくなるのは自然な流れ。北雪が定番酒ということで、ここは悩まずに佐渡の銘酒を常温でいただきましょう。
相模灘が置いているのは珍しい。厳選しています、と書かれていますが、まさにそのとおりだと思います。
では乾杯!超辛とはいいますが、北雪の辛さはピリピリとしたものではなく、余韻のすっと抜けた感じがさわやかな、そんな辛口です。お刺身をつまみに北雪できゅっと飲む、いいものです。
いぶりがっこクリームチーズを追加で。コリコリとした食感とチーズの出会い。酒場のようになんでもござれな和洋折衷の空間でないと誕生しなかったであろう組み合わせですが、これが実に美味。酒場でときどき見かけますが、必ず頼む一品です。
ハイサワーにするか、バイスにするか、悩む3杯目。よく見ると樽詰めスパークリングが300円と書いてあるではないですか。ちょっと安すぎません?なんて話をしたら、昔より50円値上げされたのだそうです。樽詰めスパークリングはサッポロビールのポールスターという商品で、すいすいと飲めてすっきりした味のチリ産のソーヴィニヨン・ブラン種の泡。
こちらのすごいところはまだあります。なんと基本無休で、しかも15時からオープンしているということ。武蔵小山は老舗酒場が14時台に暖簾をだしますし、人気立ち飲み店もお昼からやっている、スタートダッシュができる素晴らしいエリアなのです。ぜひ、早い時間に立ち寄られてみてはいかがでしょう。夜は常連さんでぎゅうぎゅうになるお店なので、タイミングよくどうぞ。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
長平
070-6520-1080
東京都品川区小山3-14-6
15:00~24:00(不定休・基本無休)
予算2,000円