大衆酒場の魅力はなんだろう。そう考えたときに、ひとつの答えがここ「丸千葉」にあるような気がします。
駅から徒歩15分。周囲にはほとんど飲み屋はなく、梯子酒をするにもバスに乗るしかなないような場所。それなのに、開店と同時にひとで溢れ、おそらく今日も14時の口開けからいっぱいになるでしょう。
それだけの人を魅了する丸千葉は、言うまでもなく料理は美味しく値段も安い。でも、それだけならば東京中あちこちにあります。それ以上の何かがここにはあるように思います。
藍色の暖簾をくぐると、接客担当のやっちゃんが「いらっしゃいっ!」と迎えてくれます。家族経営のお店でやっちゃんは弟さんで接客と仕入れを担当。厨房をお兄さんやお母さんが仕切ります。
「なゆちゃんいらっしゃい!」と明るい声で迎えられて、こっちも「やっちゃん、こんばんは!」と返事。人と人の間に距離や壁がある今の時代、酒場ほど暖かい人間関係が生まれる場所は他にないのではないでしょうか。
コの字カウンターに腰掛けて、まずはやっちゃんが注ぐ最高に美味しい生ビールで乾杯!
ここで飲む黒ラベルの美味しさはとにかく言葉で表せないほど美味。
お刺身は千住の市場で毎日仕入れているので新鮮で質がいい。特にしめ鯖やホタテはオススメです。
このぷりっとしたテカリ。シズル感というのはまさにこれのこと。
カウンターはときに、やっちゃん劇場となり、中央で飛び回るやっちゃんを見ながら観客気分。やっちゃんの人柄がお店全体を暖かく包みます。グループでくるとテーブル席になりますが、ここはやはりひとり・ふたりで来て、このやっちゃん劇場を楽しまないともったいない。
丸千葉で飲むべきもののひとつに、ここのレモンハイがあります。とにかく濃いのに飲みづらさは一切なくすいすい飲めてしまいます。普通の人は多くて3杯程度でノックアウトしてしまいますのでご注意を。やっちゃんが目の前でレモンを絞ってくれるのも劇場気分が楽しめてイイ。
ちなみに、それじゃあ濃すぎるよという人や、もっと濃くしたい人、玉露割りやホッピーなんかを飲みたいときはキンミヤのボトルをもらいましょう。私のボトルも当然入っていますが、勝手に飲まないでね(笑)
まぐろのお刺身や中落ちはリーズナブルな人気メニュー。
定食屋のようなメニューも多く、ときたま飲まずにご飯だけ食べていく地元の人もみかけます。子供が好きそうなメニューが多いですが、飲兵衛はいくつになっても子供みたいな食べ物が好きなのよね(笑)
お兄さんが揚げる唐揚げは隠し味がポイント。
ハンバーグは昔家でお母さんが作ってくれたあの味みたい。ふっくらしていてホクホクです。これを肴に酎ハイが美味しい。たっぷりのソースにマカロニのマヨネーズが絡むのが好き。
丸千葉はウィハイも濃い!下町の酒場では白ハイボール、黄色ハイボール、ウィスキーハイボールなど呼び分けされていますが、ここでもハイボールと注文すると「ウィハイ?」って確認されることも。
それにしても、ウーロンハイかと思うほど色が濃くウィスキーをどれだけ使っているのという感じ。下町は「こんくらい濃くないと酔わないよ」というおじさんが多いからね。
丸千葉から酒場の魅力を考えるならば、コの字カウンターで隣のお客さん、向かい側のお客さんとの距離が近く、なによりお店の人とのふれあいではないでしょうか。
やっちゃんが好きだから飲みに行く、それだけでいいんじゃないかな。
お酒が好きだけど、それ以上に人が好きだから酒場通いはやめられません。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)