人形町は路地の街。車が通れるかどうかの細い道の先に、また一軒、吸い込まれたくなる暖簾を見つけました。昭和40年創業、大衆的なお寿司屋さん『寿司幸』です。家族経営の温かさと、確かな江戸前の技。名物の「ばらちらし」は、そんじょそこらの海鮮丼とは大違い。赤酢の酢飯と20種近い具材が織りなす、酒を呼ぶ一皿です。
江戸時代の道幅が残る、大人の街の路地裏で
人形町は、40歳を過ぎてからしみじみと「いい街だな」と感じるようになりました。
高層ビルが立ち並ぶ日本橋のすぐそばにありながら、ここだけは時間の流れが違います。企画・設計されたグルメ街や、闇市由来の飲み屋横丁とはまた違った魅力。
一言で表すならば、凛とした上品さが漂う街。

甘酒横丁から一本入った路地は、車が通れるかどうかの細さです。この道幅は、きっと江戸の昔から変わっていないのでしょう。そんな歴史ある路地の奥に、創業から半世紀を超える『寿司幸』があります。

引き戸を開ければ、そこは昭和の空気が流れる空間。

つけ場には、親子二人の職人さんが並んで立っています。ご主人の粋な所作と、それを受け継ぐ”若”のきびきびとした動き。二人の息の合った仕事ぶりを眺めているだけで、これから出てくるお寿司への期待が高まります。背筋が伸びるような高級店ではなく、近所の常連さんが通う、ほっとする町のお寿司屋さんです。
名物「ばらちらし」は飲める宝石箱

席に着き、まずは瓶ビール。
アサヒスーパードライの小瓶をもらい、トトトと手酌でグラスを満たします。グイッと干せば、洗練された辛口が乾いた喉を心地よく刺激する。平日の昼下がりの明るい日差しを背に、寿司屋のカウンターで独り傾けるビール。今日の私はだいぶ大人です。

一息ついたところに、お目当ての「ばらちらし」が登場しました。

目の前に置かれた瞬間、思わず息を呑みます。本マグロの赤身に中トロ、熟練の技を感じるコハダや穴子。それぞれひと手間かけている真鯛やヒラメ、タコ、イカ、エビ。さらに、カニや子持ち昆布にイクラまで!
数え上げればきりがないほど、多彩な種が散りばめられています。

その数、およそ20種類。賽(さい)の目に切り揃えられた具材は、まるで宝石箱をひっくり返したような輝きです。

わさび醤油を回しかける必要はありません。煮穴子は甘めのツメで、コハダは酢で、それぞれ丁寧な「仕事」が施されています。

そのまま口に運ぶだけで、完成された味が広がる。豊洲の仲卸との長い付き合いがあるからこそ仕入れられる、極上の魚介たち。一つひとつの味が際立ちながらも、全体として見事な調和を見せています。

ばらちらしが好物でかなり食べ歩いてきましたが、これほどのものには滅多に出会えません。感動しました。
赤酢のシャリに誘われて、賀茂鶴の燗酒を

箸が止まらなくなる理由は、寿司種だけではありません。ほんのり色づいた酢飯にあります。
こちらの酢飯は、酒粕を原料とした赤酢を使用しています。まろやかな酸味と深いコク。これが、驚くほど酒を誘うのです。
「お酒、お燗でいただけますか」

たまらず追加したのは、広島の銘酒「賀茂鶴」。すぐ近くに東京支社がある縁で置いているそうです。湯煎でつけられた適温の上燗を、お猪口でちびり。
もとは同じお米からできたもの同士。日本人の本能に響くというか、理屈抜きに身体が喜ぶ組み合わせです。
マグロの脂を燗酒が切り、ヒラメの甘みを膨らませる。お昼からこんなにいい気分になっていいのでしょうか。
江戸前の粋を日常価格で
これだけの種と手間をかけた「ばらちらし」が、2,000円で楽しめる。本格的な味を守りながら、価格は下町価格。この心意気に頭が下がります。
お昼から少し贅沢に、美味しいお寿司でお酒を飲む。そんな過ごし方が似合う一軒です。売り切れ次第終了となりますので、暖簾を目指して早めの時間に訪ねてみてください。
| 店名 | 寿司幸 |
| 住所 | 東京都中央区日本橋蛎殻町1丁目14−12 |
| 営業時間 | 11時30分~13時30分くらい 夜は17時30分~ |
| 創業 | 1965年 |
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