かつてサッポロビールがCMで謳ったビールの名産地「ミュンヘン・サッポロ・ミルウォーキー」。このフレーズに心を掴まれ、いつか訪ねたいと願っていたアメリカ・ウィスコンシン州の都市ミルウォーキーへ、念願かなって足を運ぶことができました。古くからアメリカのビール産業を牽引してきたこの街の歴史は、まさにビールの歴史そのものです。

ビールシティの誕生とミラー・バレー

イリノイ州シカゴからAmtrak(全米鉄道旅客公社)に乗り、広大な大麦畑を眺めながら列車に揺られること約1時間半。

目的地のミルウォーキーに到着しました。

メジャーリーグのチーム名が「ブルワーズ」であることからもわかる通り、ここはアメリカを代表するビールの生産地です。

ミルウォーキーが「ビールシティ」と呼ばれるようになったのは、1840年代以降、ヨーロッパから多くのドイツ系移民が移り住んだことに始まります。

彼らは故郷の味であるラガービールの醸造技術と、ビアホールなどの文化を持ち込みました。

さらに、ミシガン湖の良質な水や、ビールの低温熟成に不可欠な氷を確保しやすい地理的条件も、この地がビール醸造の理想郷となる後押しをしました。

特に1871年のシカゴ大火災でライバル都市の醸造所が壊滅的な打撃を受けると、ビールの本場はミルウォーキーへと移り、米国最大のビールシティとして世界に知られる存在となりました。

そんなビール醸造の熱気あふれる1855年、ドイツで醸造責任者としての経験を積んだフレデリック・ミラーが、故郷の特別な酵母を携えてこの地にやってきます。

彼は「プランク・ロード醸造所」を買い取り、のちに「ミラー・バレー」と呼ばれる広大な土地で、その歴史をスタートさせました。


いまもミラーバレーは、現役で稼働する巨大なビール工場があり、ミルウォーキーが同社の企業城下町であることを感じさせます。

日本の大手ビールメーカーの工場とは比較にならないほど巨大で、街と工場が一体化していました。さすが米国、やることが派手ですね。
冒険気分で巡る、ビールの聖地

ミラー・バレーの広大な敷地内にあるビジターセンターで受付を済ませ、いよいよツアーが始まります。

日本のビール工場見学と同様に、まずは歴史を紹介する映像を見て、ミュージアムでその物語を学びます。

しかし、ここミラー醸造所のツアーがユニークなのは、その構造と、行く先々でビールが振る舞われることです。

工場内で梯子酒している気分で、説明を聞くのもそっちのけでビールを味わいました。


右も左も巨大なレトロ工場群。その中を歩いて、まず向かったのは初期の煮沸釜。これはまだ現役で使用されているもののようです。こうみると、ビール醸造設備って世界共通ですね。


世界最大級のビール工場といっても、規模的にはこんなものかとこのときは思いましたが――。
続いて向かうのは、前半のハイライト。機械式冷蔵技術が普及する前に使われていた、ひんやりとした地下の貯蔵用洞窟です。

レンガ造りの通路は、まるで中世ヨーロッパの地下牢か、冒険RPGのダンジョンのよう。

ここでプロジェクションマッピングによって創業者のフレデリック・ミラーが登場し、ビール造りへの情熱を語りかけます。

洞窟の奥には、ミラー社のフラッグシップブランド「ハイライフ」の象徴である「月面の女性(Girl in the Moon)」の像が静かに佇んでいました。

そして、ここでももちろん飲む!ビールにつられてあちこち連れ回されるオリエンテーリング、最高です(笑)


つぎに向かうのは現役のビール製造設備。

現在稼働している巨大な醸造タンクや、目にもとまらぬ速さでビールが瓶詰めされていくパッケージングラインが広がります。

それにしても、とにかく工場が広い。その規模は、82エーカー。おなじみの東京ドーム換算だと約7個分になります。

なんで事あるごとにビールが出てくるかというのが、ガイドさんの話でやっとわかりました。

このツアーでは、過去から現代に向かって技術や設備の進化がタイムトンネル風に体験できるようになっていて、その都度、その時代のビールが飲めるという流れのよう。これは日本でもぜひ採用してほしい!
ビール好きにはたまらない体験でした。
締めはバイエルン風ビアホールで乾杯


ツアーの最後は、創業者ミラーの故郷ドイツの伝統を感じさせるバイエルン風のビアホール「ミラー・イン」へと案内されます。

重厚な木工細工が美しいクラシックな空間で、3種類のビールとプレッツェルが無料で振る舞われます。

ツアーで学んだ歴史の物語に思いを馳せながら味わう一杯は、格別なものがありました。

ビール好きなら絶対楽しめるオススメスポットです

フレデリック・ミラーがこの地にやってきて約170年。

ミラー醸造所の見学ツアーは、単なる製造工程の見学にとどまらず、ミルウォーキーという街が「ビールシティ」へと発展した壮大な歴史を、五感で体験できる素晴らしいものでした。

シカゴからも日帰りで訪れることが可能ですので、アメリカ中西部へご旅行の際は、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょう!
施設名 | Miller Brewing Company |
住所 | 4251 W State St, Milwaukee, WI 53208 アメリカ合衆国 |
営業時間 | 9時45分~17時00分 火水定休 |
備考 | 訪問には事前のオンライン予約が必須です http://www.millerbrewerytour.com/ |