昼は喉越しの良い「へぎ蕎麦」を求める人で賑わい、夜は新潟の地酒で一献傾ける酒場へと姿を変える。茅場町に、そんな「立ち食いそば」の概念を覆す一軒があります。開業は1993年、共通点は「新潟」。グルメな酒類業界関係者も通うという、その魅力に迫ります。
雪国の温もりを東京の真ん中で


金融と酒卸の街、茅場町。東京メトロの駅から地上へ出ると、多くの人が行き交うオフィス街が広がります。その一角、霊岸島(新川一丁目)に目指す『がんぎ』はあります。

店名は、新潟などの豪雪地帯で見られる、雪の中でも往来を確保するための屋根付きの通路「雁木(がんぎ)」から。厳しい環境の中で人々を守り、町のコミュニティを繋いできた雁木のように、都会で働く人々を温かく迎えたいという想いが込められています。

1993年の創業以来、昼は立ち食いそば店として、そして夜は立ち飲み酒場として、この地で愛されてきました。ガラス張りの扉の向こうには、立ち飲みカウンターと大テーブル。機能的ながらも落ち着く空間です。
まずはビールと驚きのくじら刺しで

17時を過ぎれば、そこはもう酒場。まずはビールから始めましょう。

樽生は「キリン一番搾り」(通常580円 ハッピーアワーで400円)。かつては店の目の前にキリンビールの本社があったという縁も感じながら、一杯目を受け取ります。それでは乾杯!

合わせる肴は、立ち食いそば店とは思えない逸品「くじら刺し」(530円)です。郷土料理にくじら汁があるように、新潟では古くから鯨が食文化に根付いています。

それにしても、この価格でこの質は驚きです。赤身は臭みがまったくなく、口に含むと舌の温度でじんわりと脂が溶け出していくかのよう。柔らかく、滋味深い味わいです。

ビールがあっという間に空になり、次はお酒を。店先の幟にもあった新潟の銘酒「麒麟山」をいただきましょう。阿賀町津川という、水清らかな地で醸される、まさに淡麗辛口の代表格。すっきりとした飲み口が、くじらの旨味をさらに引き立てます。

このほかにも「久保田」や「八海山」など、新潟の地酒が揃うのもこの店の大きな魅力。
〆は名物「へぎそば」。椎茸の旨味が沁みる一杯
ほろ酔いになったところで、いよいよ〆のそばを。

『がんぎ』のそばは、新潟県十日町市発祥の「へぎそば」。その最大の特徴は、つなぎに小麦粉ではなく、布海苔(ふのり)という海藻を使うことです。これは、かつてこの地で盛んだった織物産業で、絹糸の強度を上げるために布海苔を使っていた知恵を応用したもの。

運ばれてきたそばは、ほんのりと緑がかった美しい色合い。口に運べば、ツルツルとしてコシもある独特の食感と豊かな風味が広がります。この喉越しこそが、へぎそばの真骨頂。

一番人気だという「椎茸五目そば」を注文。丼には、甘く煮含められた肉厚の椎茸が3つも浮かび、かまぼこや茹で卵が彩りを添えています。
どこか「おかめそば」を思わせる、心温まるビジュアルではありませんか。

まずはつゆとそばを一口。そして食べ進めるうちに、主役である椎茸のふくよかな旨味がつゆ全体に溶け出していきます。この味の変化こそが、椎茸五目そばの醍醐味。具が多いので、蕎麦が伸びることを気にせず、これで日本酒をもう一杯もらいたくなりました。
ごちそうさま

お酒2杯と肴、そして〆のそばまで味わって2,000円少々。都会の真ん中で、これ以上ないほど満ち足りた晩酌ができました。
昼は本格へぎそばで手早くランチを済ませるもよし、夜にふらりと立ち寄り新潟の銘酒で一日の疲れを癒すもよし。様々なシーンで頼りになる一軒です。
店舗詳細

店名 | 越後十日町そば がんぎ 新川一丁目店 |
住所 | 東京都中央区新川1-2-10 |
営業時間 | 10:00~21:00 土日祝日定休 |
創業 | 1993年 |