昭和24年創業、名古屋「角屋」はいつの時代も香ばしい焼鳥の誘惑を大須交差点に漂わせ続けてきた名店です。今日もカウンターにいる女将さんから三代目の息子さんへ注文がリレーされます。名古屋で一度は訪ねておきたい酒場のひとつです。
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2代目夫婦と三代目、親子でまもる老舗暖簾
串もの古今東西、関西は串かつ、関東はやきとん・焼鳥。そして中京の名古屋というと、やはり両方置いているお店が多いです。それでも、ここ「角屋」は、炭火焼き専門で72年続けてきた酒場です。
「角屋」がある大須観音周辺に広がるこのエリアは新旧入り交じるエリア。ポップカルチャーやアパレル、タコスやクラフトビールといった話題のカテゴリーに囲まれた中で、伝統工芸や老舗飲食店が共存しています。酒場も多く、飲み歩きも楽しい街です。
さて、角屋は店名の通り、もとは大須交差点の角に向いた小さなカウンター数席の焼鳥店でした。人気店ゆえ、徐々に店は拡張されていくことになります。写真が創業時からの部分です。
角に面した「お立ち台」的なコーナーが焼台スペース。二代目からタスキを受け継いだ3代目が、炭火を巧みに操りながら、つぎつぎ入るオーダーをテキパキとこなしていく姿は、大須のアイコンの一つと言ってもいいほど。
焼台周辺派か、女将さんが立つコの字か
焼台側の店舗と拡大された客席は壁がなくつながっています。何十年と通う常連さんにも、それぞれ好みの席があるそうで、特等席と思われる場所にはいかにも重鎮といった感じの黒帯さんが、姿勢をただしてピシっと飲んでいます。
拡張されたといっても、30年近く前のこと。すでに店の雰囲気は一体化し、いぶし銀の老舗酒場そのものです。
15席ほどのコの字カウンターで、中央は二代目の女将さん(焼台の三代目のお母さん)の持ち場です。つぎつぎ入る注文に応えつつも、お客さんへの丁寧な気配りもあって、とてもほっこりした気分にさせられます。
天井からぶら下がる拡声器は女将さんの必需品。お客さんの注文は拡声器を通じて息子さんに伝えられます。その様子を楽しみに来ている、なんて人も多いとか。
ビールはずっとキリン
半世紀以上、数多の人が傾けてきたキリンの大瓶も含めて店の風景です。樽生はありません。
名古屋工場でつくられたキリン一番搾りをトクトクと注いで、それでは乾杯。飲めば自分も角屋の歴史の1シーンになれたような気がして愉快な気分になります。
わずか10種類の串のみ
舌代(しただい/ぜつだい)の口上書きからはじまる品書き一覧。
食べ物は、わずか10種類の串のみ。いたってシンプル。これを皆さん一通り食べていきます。
とん(シロ)、きも(レバー)、ネギマ、砂ぎも、心臓、とり玉(つくね)、玉子、手羽先(350円)。手羽先以外はすべて120円。そして、もしかしたら雀が入っているかも。
串の本数が伝票代わりです。
アルコールは、ビール(大びん650円)、一級酒(300円)、二級酒(250円)、冷酒(600円)、酎ハイ(450円)、ハイボール(450円)。主要な役者は揃っているので、これで何の不自由もありません。
しょうゆ強めのタレが美味
きゅうり(120円/本)
すぐに供されるきゅうりは、お通しがない同店においてまずは頼みたい、串が焼けるまでのおつまみ。ポン酢醤油味で、わかめがネギマのごとく挟まっているのが特徴的です。
照りがたまらない手羽先(350円)
直径で500円玉より大きいくらいの、巨大な砂ぎも。「とり玉」ことつくね、そして「手羽先」。
深い旨さと香ばしさ、角屋の魅力のひとつに「タレ」の存在があります。一般的な焼鳥のそれとは異なり、サラサラで甘さ控えめ、醤油がかなりしっかり効いたもの。
“はふはふ”と頬張り、溢れる肉汁と濃厚な醤油タレが合わさると、ほっぺが落ちそうになります。
塩味の砂ぎもも負けていません。文字に起こすならば「ぶりっぶり」でしょう。歯ごたえ、食べごたえ、滲み出る旨味、どれも大変満足できます。
追加での注文も可能。皆さん次々と平らげていきます。
冬はお燗の日本酒(京都・金紋酒海灘)を、暑い季節はチューハイなど。取り扱う日本酒も珍しい銘柄ですが、チューハイも個性的。合同酒精の「瓶チュー レモン」がでてきます。
表記にある「強炭酸」のとおり、弾けてピリリとするほど。オレンジピールを使用した蒸留酒を含む、果実感の強いお酒です。
いぶされた酒場は、建物そのものに美味しさが詰まっています。家族経営のあったかい雰囲気に浸りながら、過ぎゆく名古屋の一瞬を楽しみませんか。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 角屋 (かどや) |
住所 | 愛知県名古屋市中区大須2-32-15 |
営業時間 | 営業時間 [月~金] [1F] 11:00~23:00(L.O.22:45) [B1F] 11:00~23:00(L.O.22:30) ※ランチ 11:00~14:00 [土・日・祝] [1F] 11:00~22:30 [B1F] 11:00-22:30 日曜営業 定休日 無休 |
開業年 | 1949年 |