静岡市清水、巴川沿いで1978年に創業そた「一福寿し」。開業時から値上げせず、1貫80円均一にこだわり続ける、老舗寿司店をご紹介します。
古くからの漁師町であり、東海道の宿場町として栄えてきた清水。宿場町が料飲店街に姿を変えることは多々ありますが、清水も同様です。市内を流れる巴川周辺は、桶屋が立ち並び「花街」だった歴史を持ちます。
また、漁師町ならではの豪快な飲み方をする人もかつては多かったそうで、静岡駅前の歓楽街に並ぶほどの商業規模を誇る、昼夜ともに賑わいがある街だったと言われています。
そんな話を聞かせてくれた「一福寿し」の大将。ご夫婦で40年以上続けるお店です。
脱サラして開業
外観
隆盛を誇った清水・巴川の歓楽街も、いまは静まり返っています。それでも、スナックや料理屋の看板は電気が灯るところも多く、2020年春頃までは週末は賑わっていたと聞きます。
変わらぬ流れの巴川、そして鉄橋で川を渡る静岡鉄道の音が静寂の街にリズムを加えています。
内観
カウンターと小上がりというつくり。一人飲みはカウンターで大将との会話も味わいのひとつです。
ご主人は社会人になりたての頃は、上場企業に就職し、東京勤務の会社員だったと話します。飲食、とくに寿司店を開きたいという憧れは強くあり、脱サラして静岡の寿司店の門を叩きました。修行の末、ご夫婦で清水に店を開いたのが「一福寿し」のはじまりです。
女将さんにビールを出してもらって、トクトクと注ぎ、ご主人に軽く会釈をして、では乾杯。
焼津産のサッポロ黒ラベル中瓶です。樽生の取り扱いはありません。
品書きは長年かえないことがこだわり
にぎり1貫80円で均一料金というのが、ご主人が開業する際のアイデアだったと話します。以来、値上げすることもせず、創業時から現在に至るまで、ずっと同じ値段でやっているそうです。
黒板メニューは、季節の生牡蠣や駿河湾の鯵たたき、地物の穴子などが書かれています。まぐろ、かに身なども80円です。※1種類で2貫単位の提供
回転寿司ができる以前は、均一料金は近隣には他になく、たいそうご盛業だったと大将。今でこそご夫婦2人で切り盛りされていますが、昔は職人を雇って、個人店としては大きな店内は常に満員になるほどの賑わいだったと言います。
品書きに「シーチキン巻」の文字があります。実は清水はツナ缶「シーチキン」(商標)を製造販売するはごろもフーズの本拠地。これもひとつ、ご当地の味というわけ。
つまみと寿し
鯵たたき
寿司店で飲むならば、最初はやはり少し摘みでだしてもらいたいもの。
地物の鯵をたたきで頂きます。一代で40余年続けてきたご主人。ご年齢を感じさせない立ち振る舞いと包丁さばきで、あっという間に仕上げてくれました。
コハダ
もう少しつまみで。コハダと北寄貝を盛り合わせてもらいました。
静岡割り
お茶割りは静岡では、「しぞーかわり」と呼ぶ店が多く、こちらも同様。寿司店のお茶割りは美味しいというのが定番の話です。女将さんがいれた甘いお茶が焼酎をマイルドに包み飲み心地は抜群。
穴子にぎり(2貫160円)
ツメの飴色が美しい、ふっくら仕上がった煮穴子の握り。
サラダずし
ご主人のアイデア握りや軍艦巻きも色々あるので、ぜひオススメや気になるものを聞いてみてください。アベック巻なんていうのもあります。
とろ巻(160円)
巻きずしは160円均一。お腹も落ち着いて、日本酒をちびりと飲みながら大将とお話をしつつ、というときには巻きずしがちょうどいいおつまみです。
温かい静岡割り
全国的に緑茶割りは冷たいものばかりですが、静岡割に関してはホットを選べるお店が非常に多い印象。女将さんによれば、一福ではホットのほうがよく出るのだそう。本格焼酎ベースで甘さがふんわりと広がります。
〆の赤だし
パリっと緊張させてくる寿司店とは真逆の、優しいご夫婦のあったかい接客。時間をわすれて過ごすひとときです。
お子さんを無事に育て上げ、優秀な子供たちは都心勤務をしていると、お子さん自慢のご主人。「いまはお客さんとの会話を楽しむために、商売抜きで店を開け続けています」と笑顔で話す姿が印象的でした。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 一福寿し |
住所 | 静岡県静岡市清水区巴町6-16 |
営業時間 | 営業時間 17:30~23:00(日祝17:30~21:00) 日曜営業 定休日 月曜 |
開業年 | 1978年 |