1958年(昭和33年)創業の志婦や。もともと魚屋として始まった歴史は、今も魚中心の品書きやなにより魚のレベルの高さに残されています。
ここは浅草。飲み始めるにはちょっと早い16時ごろ。早くから飲める店が多いこの町は、遠方からの観光客だけでなく、近隣に暮らす人々の”飲みの場”でもあります。志婦やも、東京メトロ浅草駅徒歩1分、駅から雨天も傘いらずのアーケード「かんのん通り」に面した好立地ながら、お客さんは地元の人が多いお店の一つ。
清潔でアイロンのかかった暖簾と、くもり硝子をはめた木製の格子の扉。昔ながらのパリっとした居酒屋の店構えは少し背筋が伸びます。この瞬間がたまりません。
たとえ17時前であっても、厨房に面した特等席のカウンターは満席のことが多い人気店。テーブルはすべて小上がりになっていて、各々あぐらや正座で食卓を囲んでいます。昔ながらの居酒屋の佇まいです。
にぎやかでも、ひとつひとつの席では気品のある振る舞いもあって、騒がしさを感じさせません。このバランスの良さ、店が醸し出すムードはお客さんの雰囲気にも反映されるとと改めて感じます。
今日も今日とてビールから。樽生は一番搾り、ビンはレギュラーラガーと浅草にあってキリン揃え。まずは瓶ビール(650円)を。ついでにすぐ出るほうれん草おひたしと、お通しのひじきも受け取り、乾杯!
以前よりも日本酒の品揃えが増えたようで、丹澤山 ・麗峰(神奈川県山北・ 川西屋酒造)や、京都は丹後半島にある向井酒造の純米生酛・京の春など、こだわりを感じる銘柄が揃います。
ここではお刺身をぜひ。他にも鯛刺し、あじたたき、甘海老、しめ鯖、たこ…と刺身の種類は非常に豊富。コハダは特に人気です。ほっき、活つぶ、とり貝、赤貝、青柳にさざえ刺しと貝類が充実しているのが特色です。ですが、私は断然まぐろぶつ。好みもありますが…
見るからに美味しそうではありませんか。やや脂がのったハラのほうの部位。ねっとりと舌を包み込む脂の美味しさ、そしてほのかな酸味の爽やかな余韻は格別です。
合わせるお酒は、定番の菊正宗(490円)。灘の定番酒をするすると。
サラマンダーやグリラーを使わずに炭火で串焼きにするのが志婦やのこだわり。魚種によっては踊り串にし、化粧塩を施し1本1本様子を見ながら丁寧に仕上げていきます。焼き物は季節で変わりますが定番は穴子の白焼です。炭でいぶすようにじっくり焼く穴子は余分な脂を落とし上品な味わいに。鯵、あゆ、やきとり、厚揚げ、茄子などが金串焼きです。
家族経営のほっとする雰囲気。燗酒を片手にじんわり脂がにじむさんま塩焼きをつまむ楽しいひととき。
夕方17時過ぎ、だんだんお客さんが増えてくるとともに、口開けから飲んでいた常連さんはさっと席をゆずっていきます。下町の老舗居酒屋はとても心地よいです。
さて、私も次にお客さんが来たらお会計しましょう。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材時期/2019年秋)
志婦や
03-3841-5612
東京都台東区浅草1-1-6
16:30~23:00(日祝は15:30~・月定休)
予算3,300円