新宿から登戸まで、これまでは急行で20分。2018年3月17日からは4分短縮され16分で結ばれます。1980年代から続けられていた小田急線の複々線化工事がついに完成。小田急沿線がぐんと都心に近づく大改造です。
それに合わせて沿線も再開発ラッシュ。登戸駅周辺は数年前まではトタンの木造商店と細い路地が入り組む、いかにも昭和の私鉄沿線の佇まいでした。これが気がつけば駅舎も変わり、駅前にも更地が増えて、見上げれば高層マンションが立ち並びます。まるで武蔵小杉のデジャヴを見ているかのよう。
こうなると飲み屋街の存続が心配されますが、案の定かなり削られてしまいました。それでもギリギリ残る一画で、昼から賑わう店「平安郷」から笑い声が聞こえてきます。
平安郷は焼肉屋とやきとり、2つの暖簾を掲げています。目当てはもちろんやきとりの方。暖かくなると店先までテーブルが並びちょっとしたビヤガーデンのようになる開放的なお店です。
曇りガラス越しに差し込む昼の日差しに照らされた店内。テーブル席の他に立ち飲みカウンターも設けられ、皆さん自由に過ごしています。
ビールは樽生でサッポロ黒ラベル。瓶ビールはサッポロラガーを置いています。酎ハイ類は320円(以下税別)から、たっぷり飲みたい人にはメガハイボールが人気です。玉の光の純米吟醸が380円は目を見張る安さです。
ヤキトリハウスの冠のとおり、主力は焼鳥。1本120円で均一です。とにかく売れ行きのいいお店で串の回転がよく鮮度がいいんだよと常連さん。
加えて日替わりがホワイトボードにびっしり。やきとり店なのに「鱈の水炊き」から始まる謎のバラエティ。
ポテトサラダが250円、カリカリ厚揚げも人気。焼肉店と一体化していますので、カクテキやキムチも楽しめます。
今日も大先輩なビールのお世話になります。トトトと注いで安心感。50年続く駅前の焼鳥酒場には星が似合います。では乾杯。
焼鳥が焼けるまでの間を、日替わりから帆立チャンジャをつなぎ役に。ちびりと舐めてきゅっとビール。窓の向こうを眺めればマンション越しの太陽。今日も昼から背徳感。
ハツにとりにぼんじりに。焼鳥串より一回り大きな鰻用のぼっか串が使われているあたり、そのボリュームがおわかりいただけるでしょうか。
しっかり食べごたえ。とろみある甘めのタレと、そこにたっぷり七味をかけて頬張れば、誰だって満面の笑み。
余韻が残るうちにビヤタンを口に運びぐいっと飲み干して、ぷはー。新宿と違って広々と開放感。少し電車に乗っただけなのに。
お店の抹茶ハイ(320円)は自家製の濁ったもの。吸い込みがますます良くなるクセになる酎ハイです。
キンミヤでお馴染みの宮崎本店。こういうお店ならば当然キンミヤかと思いきや、甲類ではなく日本酒・宮の雪の濁りが入っています。
三重県は酒の里・楠で作られた鈴鹿山脈伏流水の美味しい一杯。
これでもかとサービス満点。焼鳥やチャンジャに宮の雪。脈絡ない組み合わせですが、雑多な空間で飲むとこれが全然いけるのです。
玉の光の純米吟醸(380円)。日本中の酒蔵が続々と美味しいお酒を開発する中でも、変わらずどっしり存在感たっぷり伏見の酒。安定の美味しさです。
自家製カリカリ揚げ(300円)は、揚げたてほくほく。鰹節を踊らせながら登場したものにすかさず醤油でじゅっと。
ゆっくりとのんびりした時間が流れています。のんびりいいなーと時計を見てみれば、もう2時間も飲んでいる…。いつのまに。昼酒天国は時間の進みが早い。
今日も老若男女、地元のご隠居から新築マンションの住人まで幅広い層で賑わう平安郷。みんなの共通点はひとつ「酒が好きだ!」。そんなノンベエムードに包まれた居心地よき酒場へ、新しくなる小田急線で梯子酒の旅にでてみてはいかがでしょう。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
ヤキトリハウス 平安郷
044-922-5554
神奈川県川崎市多摩区登戸3402
16:30~22:30(土日祝は14:00~22:30・木定休)
予算1,500円