岡山の飲み屋街は歴史ある城下町らしく駅前から天満屋本店のある表町まで大きく広がり、大箱から小料理屋、横丁まであらゆる夜の要素が集合しています。桃太郎大通りを行き交う路面電車からの車窓も楽しいですが、梯子酒なら一本入った路地を歩かれてみると奥行きが楽しめます。
岡山タカシマヤの裏から5分ほど。磨屋町の「もりもと」も、そんな岡山の深さを知る名酒場です。
人通りは少ないですが、名酒場には美味しい酒と肴を求める人たちで毎夜大賑わい。
創業は1962年(昭和37年)。刺身から焼鳥、揚げ物まで提供する正統派。
赤提灯と縄のれん。背筋を伸ばして、そっと引き戸に手をかけたい。酒場で飲むことに慣れている人にはたまらない佇まいですが、そうでない人には一段高い敷居に見えそうです。ノンベエが安心して飲める楽園が守られています。
渋い大将と笑顔が素敵な女将さんが迎えてくれます。家族経営のほっこりした雰囲気が店を包み、カウンターに座っただけでも癒やされます。
「さて、何から飲もう。あれもこれも食べたい。さぁ、はじめるぞ」、そんな気分。
岡山は吉井川沿いにキリンビール岡山工場があり、市内の居酒屋で飲めるビールはほぼ地元づくりです。そんなこともあり、一杯目は地元岡山生まれの一番搾りで乾杯。しっかりサイズで500円。人気店ゆえビールが次々と飲まれ、フレッシュな生が楽しめます。
瓶ビールはキリンクラシックラガーで630円。酎ハイは380円です。
あれもこれも食べたくなる品書き。壁の短冊とホワイトボードから選びます。岡山といえば瀬戸内の海産物を楽しまなくては。キス、ケン先イカ、蝦蛄、そして岡山の郷土の魚「サワラ」も外せません。季節によってはハモやベイカも加わります。
お酒は地元岡山のお酒ほか、全国のご当地酒から選りすぐりの銘柄が並びます。業務用冷蔵庫に一升瓶が詰め込まれていて、ニュアンスを伝えればお店の方に選んでもらうことも可能。岡山は酒米雄町の故郷、お酒のレベルも年々上がっています。なお、燗酒用は超辛で450円。
まんま借りてくるほど美味しいから「ママカリ」。言うまでもなく岡山の定番おつまみですが、寿司屋のそれと違い、家庭料理や酒場では一度焼いたものを酢醤油に浸けたものがでてきます。頭まで食べられる柔らかさ、ちりちりとしたテクスチャで、口の中でふわっと広がる優しい旨味。
すかさず、そこに日本酒をちゅっと。岡山県浅口市の丸本酒造がつくる「かもみどり」。海産物の美味しさを引き立てるような味です。
いいだこ煮もこの街でお酒を飲むならば外せない一品。口の中で溶けるようなほろほろとした食感に、甘さとコクの絶妙なバランスです。
鯛、万善カブラ、黄ニラ。考えてみれば岡山はご当地料理の宝庫です。
瀬戸内海のしらすもお酒のお供にぴったり。半生しらすオロシ(400円)は酢醤油をちょっとつけてちびちびと。
巨大な蝦蛄やアジのなめろうも「もりもと」の人気料理で、「今日、なめろうまだある?」と、店に入るなり最初に聞く常連さんもいるほど。
腕の良い大将の気の利いた肴を大衆酒場価格で食べられる。あれもこれも、みんな頼みたい。料理だけでなくお店の雰囲気も素晴らしい名酒場です。ぜひ立ち寄ってみては。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
もりもと
086-223-2557
岡山県岡山市北区磨屋町6-24
17:00〜23:00(日祝定休)
予算2,200円