東京・数寄屋橋交差点はここ数年で大きく姿を変えています。阪急がテナントとして入っていた東芝ビルは東急プラザ銀座に生まれ変わり、技術立国・日本の象徴的存在のひとつだったソニービルも間もなく建て替えがはじまります。
そして数寄屋橋で麦酒といえば、いまから80年前に誕生したビヤホール「ニユートーキヨー本店」です。
ビルの老朽化と区画整理のために、多くのファンに惜しまれつつ2015年に閉店。ビルに大きく掲げられたNTBと、サッポロビールの巨大な電照看板が数寄屋橋から姿を消し、あれから二年。場所をわずかに帝国ホテル寄りに移して、新たなビルで営業を再開しました。
以前ニユートーキヨー本店があった東京メトロ銀座駅【C1】の前は、いままさに再開発の真っ最中です。雨の日も、”営団”から雨でも濡れずに飛び込めたニユートーキヨー本店は、同じく銀座で長年続くビヤホール・ビヤホールライオン銀座5丁目店と並び、東京の中心で文化人からサラリーマン、百貨店にお買い物のご婦人まで幅広く愛されたビヤスポットでした。
それでは、少しだけ2年前に遡ってみましょう。ここは2015年2月の数寄屋橋。1957年10月9日に完成したニユートーキヨー本店の最後の姿です。晴海通りや東京高速道路、新幹線からも見えたビルで、屋上では夏は毎夜ビヤガーデンで大いに盛り上がりました。
ドイツのビヤガーデンを彷彿させる赤レンガアーチとステンドグラスの立派な店内では、多くの人々が乾杯と楽しい時間を共有しました。私もたくさんの思い出があります。
閉店後、ニユートーキヨーのフラグシップ店舗の位置づけは線路を挟んだ反対側にある有楽町電気ビル地階に移され、本店で何十年と飲まれてきたニユートーキヨーファンの先輩方も数寄屋橋を惜しみつつ、有楽町電気ビル店で飲まれていました。
そうして、2年後の今日6月9日、待ちに待ったニユートーキヨー本店が数寄屋橋に帰ってきました。ニユートーキヨーは、数寄屋橋にあるからこそニユートーキヨー。アイデンティティをそう考える長いファンからすれば、大変うれしいことです。
※ニユートーキヨー有楽町電気ビル店は引き続き営業を続けます。
初日の今日も、早い時間から長年のファンの皆さんで予約はいっぱい。高度経済成長時に大いに愛されたビヤホールは、当時ここで同じ時間を過ごした方々に今も大切にされていることが伝わってきます。
照明やステンドグラスは旧本店のものを再利用しているようで、見覚えがあるものが多々あります。(写真でも2年前の店内と同じシャンデリアが確認できます。)
さらに、余裕のあるボックス席や個室など、以前よりも様々な用途で使えるようにパワーアップしています。二階が伝統的なビヤホールで、一階はクイックに使えるバル風の空間と業態別けもされています。
一階メニューと二階メニューは多少異なりますが価格は同じ。定番のサッポロ生ビール黒ラベルは500円(以下すべて税別)。伝統のシュタインジョッキも健在です。ビールはサッポロ黒ラベルをメインにエーデルピルスなど。瓶ビールではサッポロラガー(赤星)も扱っています。二階には、ここに白穂乃香と琥珀ヱビスが加わります。
ニユートーキヨー本店は一度注ぎ。縦方向に操作するコック型ではなく、銀座ライオン7丁目店と同じく横ハンドル式の伝統のスタイルを貫いています。ビヤホールの中堅カウンターマンでもハンドル式は操作が難しいと聞いたことがあります。
ハンドルを回し、”どーっ”と注がれてきゅっと閉じれば、ガス圧・泡の比率もばっちりの生ビールが注がれる。同じサッポロ生ビールでも、味が違うから不思議です。
サッポロビールは、飲食店で飲むサッポロ黒ラベルのイメージを家庭向けの缶商品とリンクさせたいという考えから、以前は「サッポロ生ビール」と呼んでいたビヤホールでの呼び名を「黒ラベル」に統一しました。それでも、黒ラベルという名称が誕生する以前からニユートーキヨーで飲んでいる先輩方が注文に際して「サッポロ生」と呼んでいる姿があり、それもまた伝統でありカッコイイ。
サッポロ生ビール(黒ラベル)のグラスで乾杯!
新デザインになっても変わらないNTBのロゴ。金色に輝き、一層美味しい見た目です。
伝統のシュタインジョッキも、同じくニユートーキヨーの味。肉厚のジョッキはグラスとは違った甘さが感じられ、二杯目以降の肩の力を抜いて飲むのにぴったりです。
一階のメニューは、従来のニユートーキヨーのものをオシャレに寄せたもの。ソーセージやフィッシュアンドチップスなどビールに合うおつまみはもちろん用意されています。お昼から通しで営業しており、ランチタイムはカレーライス(780円~)が登場します。遅めのランチ、ピザをつまみに午後のビールというのも素敵でしょ。
一階・二階ともに用意されている伝統のニシン料理です。他店ではニシンの酢漬けとなっていますが、本店はニシンのマリネ。ニユートーキヨーの前身は函館の海産物問屋「森卯商店」であり、1937年のオープン当初は干鱈がビールのつまみだったそうです。
そして、ニユートーキヨーといえばやはり「カミカツ」(1,200円)です。薄く伸ばされた黒豚がつかわれていて、衣の面積が広いにも関わらずサクサクとしていて脂っこさがない。見た目のインパクトは大きくとも男性ならひとりでぺろりと食べられるサイズです。キムチソースが合えられたキャベツを巻くようにして食べるのがツウ。
ニユートーキヨー数寄屋橋本店、これからも通い続けたいビヤホールです。昭和のビヤホール文化を感じる老舗で、この夏、今再びの乾杯をしませんか。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ Special Thanks/サッポログループの皆さま)
ニユートーキヨービヤホール数寄屋橋本店
03-6264-6538
東京都千代田区有楽町2-2-1
11:30~23:00(土日祝は22:00まで・無休)
予算3,300円