岡山・西大寺町「成田家総本店」 うまく早く感じよくなおかつ安く

岡山・西大寺町「成田家総本店」 うまく早く感じよくなおかつ安く

2017年4月24日

岡山には「成田家」と屋号を掲げる居酒屋が二十数軒あり、市内だけでなく倉敷や水島にも展開するローカルチェーンです。チェーンと言っても暖簾分けの方式をとっていて、共通の仕入れこそあるものの、個々のお店ごとに大将がいる家族経営で、それぞれに長い歴史があります。

常連さんたちも、それぞれに好みの店があり、毎日のように時間になるといつもの顔ぶれで埋まる。

とくに岡山市街中心部には徒歩で移動できる範囲に複数店があり、西大寺店、倉田店、田町店など狭い範囲の町名を店名に冠しています。岡山の中心部にあっては全国チェーンの居酒屋をこえる密集度であり、どれだけ岡山の人々が”成田家飲み”を好んでいるかが伝わってきます。

地名ではなく、「総本店」を名乗る成田家もあり、岡山の古くからの繁華街・表町で毎晩開店と同時にほぼ満席状態で宴が始まります。

岡山の賑わいはJR岡山駅前と天満屋本店をコアとした表町周辺の2箇所にわかれていて、地下街のリニューアルや家電量販店の登場で若い人が集まる駅周辺と、備前岡田藩の城下”栄町”の堂々たる風格を残す表町と個性が異なり、どちらも梯子酒が楽しめます。

その両方を路面電車「岡電」こと岡山電気軌道が結んでいます。県庁通り・岡山後楽園までは100円、全区間乗っても140円と安いので路面電車で回遊するのがおすすめです。

総本店たる堂々たる店構え。建物一棟が成田屋で、客席は2階に入り口があります。

一階のシャッターはいつも閉まっていますので、はじめてだと「あれ、お休み?」と戸惑いそう。開店から数十分しか経過していないまだ早い時間でも、階段を通して笑い声が聞こえてくるので、案外階段に近づけば敷居は低く感じられます。

一直線に長いカウンターが厨房側を向き、それとは別にテーブル席も並ぶ店内。席数は割と多い方ですが、いつも満席に近い。それでも、カウンターの常連さんが詰め合わせてくれて、ここいいよ!なんて言ってくれるから嬉しいです。

厨房の壁や冷蔵庫を埋め尽くさんばかりの短冊が品書き。さすが瀬戸内海に面した都市だけあって、瀬戸内の幸は居酒屋の中でも溢れています。そして、なんといっても安い!200円から並ぶつまみの数々。岡山の酒場は侮れません。

瓶ビールでは赤星こと日本最古のビールブランド<サッポロラガー>の大びん500円台。生ビールにサッポロ黒ラベルを用意。中ジョッキ(550円)のほか、大生もあり。老舗の証拠、まだサッポロビール社のロゴが赤かった時代のジョッキが現役です。

サーバーの状態、ガス圧、鮮度、ジョッキの扱いまでもが完璧で、街場の大衆酒場でまさかの「極上」が飲めることに驚きます。乾杯!

刺身は中トロ(750円)を筆頭にタイ、ひらめ、カンパチ、赤貝、地ダコ、ハマチ、紋甲イカ、サバ、アジ、キジラ、ニシ貝、カツオにフグまであります。アジ刺しは400円と、価格も決して高くなく、それでも今朝岡山の市場から入れたばかりのいいものばかり。

そんな中にあって、あえて注文したのはベカ刺し(370円)。ベイカという名のイカで、瀬戸内海の汽水域に生息している珍味。岡山の春をつげる”ベカ”などと呼ばれ、地元では日常の食卓にあがるそうです。ホタルイカよりも一回り大きく、甘みがつよく、穏やかな磯の風味が余韻として残り、日本酒を欲します。

岡山の人は鯛が好き。天満屋のデパ地下でも、駅前の大衆酒場でも、高級な寿司店でも鯛は大定番の肴。手のひらをこえるサイズの巨大な鯛かぶとのアラ煮は、なんと400円。

ほっぺ、あたまの裏側、ヒレ周りに脂がつまった肉をたっぷりつけていて、これだけで日本酒は何合でも飲めてしまいます。

多胡本家酒造場・津山のお酒が定番酒。加茂五葉の原酒が人気で、1杯420円。鯛やママカリ、ベカの余韻にちゅっと合わせれば、岡山の夜はもう大分満喫した気分になるはず。

ママカリ(230円)やピンダコ(370円)、春の岡山といえばベラタ(穴子の稚魚)など食べたいものが山ほどあります。いまが旬、生いかなごの天ぷらも食べたい!

ですが、成田家といえばやはりこれでしょう。名物の湯豆腐。成田家は豊富な魚に目が行きがち。ですが毎日通うご隠居さんたちに言わせれば「湯豆腐」の店なのだそう。220円とリーズナブルながらたっぷりと盛られてきます。海鮮出汁の塩味で、コクと豆腐のバランスが絶妙。夏場でも注文される人気の一品です。

“うまく早く感じよくなおかつ安く”が店のスローガン。常連さんが多いながらも、イチゲンさんにも入りやいようにと、丁寧でハキハキした接客でうまく店をまわすスタッフの皆さん。まさに<感じよく>という言葉がぴったりです。

箸袋にはいまはなき店舗も含め、ずらりと各店の名が記されています。総本店が素晴らしいけれど、それぞれの暖簾もくぐってみたいものです。

岡山の夜、瀬戸内の肴と名物湯どうふで大満足。お通しなく二千円くらいあれば十分満喫できる名酒場。岡山飲み歩きの際に、成田家総本店は外すことの出来ない一軒です。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

成田家 総本店
086-231-8755
岡山県岡山市北区表町3-13-69
17:00~22:00(日祝定休)
予算2,000円