青森の酒場を紹介するならば、ここ「ゆうぎり」は外せません。歴史ある酒場で、店構えの渋さがもうたまりません。
色あせた暖簾でありながらも、店先はたいへんキレイにされていて、看板も扉もぴかぴかです。
駅からほど近いとはいえ、メインの居酒屋街からはちょっと離れた場所にあるので一帯は寂しい雰囲気です。ですが、「ゆうぎり」からは確かな熱量を感じます。
料理はコース制でおまかせなのです
16時のオープンですが、「だいたいそのくらい開ける」という感じで、口開け最初の私が入ったときはまだお座敷にかけている掃除機の音が響いています。
もういいですか?どうぞどうぞ、という流れで、まずは瓶ビールでスタート。青森でひときわ老舗の酒場、そのカウンターにはキリンクラシックラガーが似合います。
旅先の老舗のカウンターで瓶ビールを傾けるとき、軽い緊張感がまた心地いい。それでは乾杯!
ゆうぎりは単品ではなくすべてコース制。
2500円から500円ごとに上がる値段設定で、蟹がでるなど食材や料理が高級なものに変わっていく仕組みです。私はこの後に梯子酒したいので、一番リーズナブルのコースでお願いしました。
といっても、お通しから鮮度抜群の生うにで始まるのだから素晴らしい。磯の風味だけでなく、複雑で奥行きのある味わいにうっとり。
ゆうぎりの良さは、なんといっても様々な料理を少しずつ小鉢で楽しませてくれるこの流れ。
あんこうのとも和えは、あんこうの身にあん肝をまぜた飲兵衛の夢を叶えてくれる逸品です。旨味がつよく、程よい塩気とねっとりとした脂系の甘さが、絶妙な均等を保つ素晴らしい小鉢です。
青森は伝統的にキリンが有力に思えます。老舗といえばキリンという印象。
古くから使い込まれている樽ごと冷やす旧式のディスペンサーから注がれるキリン一番搾りは、ジョッキも管路の状態も抜群によいようで、素晴らしく品質が高い。
生うに、あんこう、そしてホヤ刺し
続いてでてきた3品目は生ホヤです。
かなり大ぶりのホヤから切り分けているのですが、鮮度だけでなく、ホヤそのものが一般的なものと比較にならないほどコクがあるのです。
花冷えの田酒を片手に、ちょうど頃合いよく焼けたホタテの貝柱をつまみましょう。
中はジューシーでぷりっとしていつつも、表面はかりっと。箸を当てると程よく弾力。頬張ればまろやかな甘味を感じつつ、鼻へ抜ける磯の香りがたまりません。
お店は女性だけで切り盛りされていて、数人の熟練のお姉さんたちが次々と手際よく料理をつくっています。カウンターはそんな厨房を眺めて飲める特等席です。
ホタテもホヤも最高です、と話しかけても、「このあたりじゃこれが当たり前だからねー。」とさらっとした会話。それでも、次々つくられている料理は一品一品にネタの質と腕の良さが感じられます。
活イカはさすが青森
イカの刺身は軽くつまむ程度に。透明で薄白く、歯ごたえのあるイカ。さっきまで奥の生け簀を泳いでいたもので、まだゲソが動いています。「動いていてびっくりしたでしょう?」という内容をバリバリの青森弁で話しかけられて、最初は意味がわからず、でもお姉さんが笑っていたので、あー!っとこちらも気づいて笑い返します。
青森の自慢のイカは確かに絶品です。
名物は粕汁
ゆうぎり名物の粕汁が最後に出てきます。
これを目当てに東京から飲みに来る人も多いゆうぎり定番の料理です。あんこうなどの魚のアラがたっぷり入った港町ならではの海鮮粕汁を肴に、清酒豊盃が心地よく体へ染みていきます。
出張や観光で飲みに来る人と地元の人の比率は半々くらい。奥のお座敷の宴会グループは地元企業の親睦会のようで、街に愛されているのがよくわかります。
「おばあちゃんたち、がんばって働いて孫に美味しいものを買ってあげるのが楽しみなの。」と話すお店のお姉さんの優しく暖かい話にほっこりしました。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)