東京には、江戸時代から暖簾を守り続ける鰻屋がいくつか点在しています。何百年も継ぎ足されたタレ、代々受け継がれる焼きの技。それを今もふらりと立ち寄り楽しめるというのは実に素晴らしい!そのひとつが、市ヶ谷から九段にかけての靖国通り沿いにひっそり佇む『阿づ満や』。威勢のいい女将さんが守る一軒を、今回はご紹介します。
靖国通り沿いにひっそり佇む、江戸創業の老舗

17時の市ヶ谷・靖国通り。口開けの時間を目指してやってきました。帰りを急ぐ人の波をかき分けるように暖簾をくぐると、ほのかに漂う備長炭の香り。老舗ならではの、凛としつつも落ち着いた空気に包まれます。

出迎えてくれたのは、かっぽう着姿の女将さん。
初めてにもかかわらず明るい表情でにこやかに迎えてくれました。こういう店が大好きです。早い時間に来てくれるお客さんは嬉しいわ、とのこと。聞けば19時台には予約がぎっしりで、地元の年配の常連さんが多い様子。
板前さんが腕を振るう店ですから和食も一通り揃うのでしょう。夜は会食に使う人が多いようです。

創業は文化年間、赤坂で暖簾を掲げたのが始まりとのこと。
関東大震災で被災した後、九段へ移転。なんと200年以上の歴史を刻む老舗なんです。

江戸のうな重に舌鼓
お通し三種、どれも丁寧な仕事

ビールはアサヒとキリンが選べますが、今日はスーパードライの気分。薄く飲み口の良さそうなビアタンブラーを満たしたら、一人静かに乾杯。

お通しはいかがですか、と女将さん。「お通しが美味しいと評判なのよ」の一言にはつられるもの。秋を前に、季節を感じる緑のモミジが素敵です。


西京焼き、きんぴらごぼう、おから、おひたし、どれもひと口ごとに丁寧な仕事が光ります。
ぷりっとキモに三つ葉の香り、肝吸い

お椀は別注文とのことで、肝吸いも追加。ぷりっと脂をたたえたキモに、三つ葉の彩りと香りが加わって、味覚も見た目もひと際引き立ちます。

大きなキモは鰻の旨味を濃縮しつつも、クセは皆無でしみじみと美味しい。
備長炭で焼き上げた、二切れの「松」

今回の狙いは鰻ひとすじ。シンプルにうな重を注文しました。二切れの「松」で3,800円。老舗にしてこの価格設定は良心的の一言。

待つこと20分ほど。塗りのしっかりしたお重に収まって、うな重が登場です。

蓋を開けた瞬間、ふわりと立ちのぼるご飯の香りと、備長炭で焼き上げた鰻の匂いが顔を包み込みます。

注文を受けてから蒸し、タレにくぐらせて焼き上げる蒲焼き。もちろん伝統の背開きです。

内側の開いた面をしっかり焼き、皮はふわっとした焼き加減。脂は程よく落ちながらもふっくら仕上がり、焼き目の香りと食感が実に心地良いです。

ご飯は控えめ、タレはほんのり甘口で、鰻の旨みを邪魔しません。箸休めのお新香もシャキシャキ、味の変化を添えてくれます。

使う炭は備長炭のみ。タレは長年継ぎ足し。ご飯は4つの釜で炊き分け、炊きたてを提供する。老舗らしいこだわりを随所に感じるうな重でした。

女将さんのお人柄に癒されました

かつて店の前には都電が走り、二階からは富士山も望めたのだそう。時代とともに景色は変わっても、江戸から続く一軒の灯りは変わらず。ネットも喧騒も届かない、令和の東京から隔離されたような時間の中で、女将さんの人柄に温められる晩酌でした。
ちょっとした接待や、老舗の空気を味わいたい日におすすめです。
| 店名 | 阿づ満や |
| 住所 | 東京都千代田区九段南4丁目5−12 ABEビル |
| 営業時間 | 11時30分~14時00分 17時00分~20時00分 日曜・祝日・第2/4土曜日 |
| 創業 | 文化年間 1804年~1818年の間 |
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