荻窪の閑静な住宅街に店を構える『本むら庵 荻窪本店』は、1924年創業の老舗蕎麦店。機械化が進む中、石臼挽き自家製粉と手打ちという、蕎麦屋本来の職人技に早くから回帰したことで知られています。また、平日のお昼から通し営業でつまみと酒の酒類も豊富。今回はそんな蕎麦前も蕎麦も魅力的な名店の絶品「天せいろ」をご紹介します。
目次
杉並の歴史とともに歩む、石臼挽き手打ち蕎麦の先駆者

荻窪駅北口から白山通りを抜けて徒歩10分ほどの住宅街に、立派な和風建築が見えてきます。
1924年(大正13年)の創業から一世紀以上の歴史を持つ『本むら庵』は、旧上荻窪村「本村」で農家をしていた初代が、関東大震災後に移り住んだ住民向けに、出前中心の蕎麦店を開いたことが始まり。店名の由来は地名からきています。

戦後、蕎麦職人の仕事が自動化するなか、『本むら庵』は機械化の波に逆行するように「石臼挽き自家製粉」と「手打ち」へと転換。全国の蕎麦店に先駆けて素材本来の風味を追求した立役者として、蕎麦通の間で有名になりました。

広々とした店内には木材の温もりが漂い、窓の向こうには盆栽作家が監修する見事な日本庭園が広がります。テーブル席の先、畳敷きの座敷は穏やかな日差しとそよ風が感じられてとくに居心地がいい。いまはテーブル席になっているので、座敷に通されても安心です。
主役の蕎麦についてですが、18度の低温倉庫で徹底管理された国内産玄そばを、その日に打つ分だけ店内の石臼で粗挽きにする徹底ぶり。営業中も都度蕎麦打ちを行っていて、挽きたて・打ち立てが楽しめます。

お酒も特色があり、なんと剣菱の樽酒が用意されています。ビールも和食との相性を考えてつくられているサッポロのプレミアムビール「白穂乃香」を取り扱い。

明るい時間から庭園を眺めてゆったりと杯を傾ける年配の方々、週末の家族連れ、遠方から通う蕎麦通まで、客層は様々。15時頃でもほぼ満席状態で、予約も多数。いまも昔も、杉並を代表する名店と言っていい人気ぶりです。
私も生家が近く、家族と食べに行った思い出がいくつもあります。
白穂乃香から樽酒へ、計算された酒肴と極上の天せいろ

席に着き、まずは「サッポロ 白穂乃香(1,100円)」からスタート。飲食店限定で提供される無濾過ビールのクリーミーな泡が、乾いた喉を優しく潤してくれます。

鈴廣の板わさと春の味覚

最初の肴は「板わさ(850円)」。小田原の老舗・鈴廣の焼き板を使用しているそうです。

蕎麦屋の板わさでは珍しい焼きが入ったもの(焼き板)。魚肉の旨味と心地いい食感が楽しい、1センチメートル超えの厚さに切り揃えられた定番の一品。繊細な白穂乃香の風味にぴったり。

続いて「ホタルイカとうどのからし酢みそ和え(1,300円)」を。富山湾特産のホタルイカが持つ濃厚な肝のコクと、うどの鮮烈な青い香りを、からし酢味噌の酸味と辛味が一つにまとめ上げます。

季節メニューなので、取材で訪ねたこの時期だけの味。

これには日本酒でしょう。「白鶴 上撰 きりっと辛口 一合(1,000円)」をお燗でお願いしました。キレのある辛口のぬる燗が、肴の輪郭をくっきりと浮かび上がらせてくれます。これはとてもいい!
二種類の樽酒と技が光る三点盛り

なかなかいい気分になってきました。続いてのお酒は、「黒松剣菱 杉樽 一合(1,300円)」を冷酒で。本来は升で提供されるのですが、今回は徳利でお願いしました。

吉野杉の爽やかな香りが溶け込んだ重厚な味わいの樽酒に合わせるのは「おつまみ三点(900円)」です。
根菜の風味を引き出したウドのきんぴら、自家製粉の強みを活かしたなめらかなそば豆腐、洋の技法を取り入れたカキのオイル漬けが並ぶ贅沢な一皿。ウドは武蔵野台地の名産ですし、ぜひ食べておきたい。そば豆腐も、昔から本むら庵の名物蕎麦前ですね。
老舗の品格を感じる特大天せいろ

蕎麦前を堪能した後は、本命の「天せいろそば(2,550円)」へ。

特大海老の天ぷらは衣が薄く、サクサクとした軽快な歯触りが秀逸。

天つゆが蕎麦つゆとは別添えで用意される気配りも嬉しいポイントです。

天ぷらの油で繊細な蕎麦つゆが汚れることなく、それぞれの味を最後まで綺麗に楽しめます。

打ちたて、茹でたての蕎麦は、二八や十割といった固定の比率に縛られないのが特徴。

その日の気温や湿度、粉の状態を見極めて職人がつなぎの割合を微調整しています。粗挽き特有のほのかな透明感があり、豊かな穀物の香りが口いっぱいに広がります。

合わせるつゆは、神田界隈の老舗に見られる醤油のキレが際立つ濃いめの味とはひと味違う、まろやかな仕上がり。

4代目が改良を重ね、冷たいお蕎麦には最高級の本節のみを使用した、雑味のないすっきりとしたつゆ。これが蕎麦の甘味を優しく引き立ててくれます。
最後は白濁した蕎麦湯でつゆを割り、熱々の海老天と冷たく締まった蕎麦の温度差の余韻をじっくりと味わい尽くしました。うん、美味しかった。最後にお銚子、もう一本もらっちゃおうかな。

ちなみに、冷たい天ぷら蕎麦には「天せいろ」と「天ざる」の2種類がありますが、ざる蕎麦は海苔が盛られてくるという違いがあります。
世代を超えて受け継がれる蕎麦屋酒の神髄

店の雰囲気がいい、接客が親しみやすく、それでいて上品である。そういう飲食店としての良さはもちろんですが、やはり人気の理由は料理の質の高さでしょう。
よく考え込まれた肴と酒、そして技がつまった蕎麦の良さが見事に調和した荻窪本店。創業から一世紀を経てなお、石臼の目立てや仕入れに妥協せず進化を続ける姿勢が、多くのファンを惹きつけます。
店舗詳細









| 店名 | 本むら庵 荻窪本店 |
| 住所 | 東京都杉並区上荻2丁目7−11 |
| 営業時間 | 11時00分~21時00分 火水定休 |
| 創業 | 1924年 |
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