観光客で賑わう浅草ですが、一歩路地に入れば、そこは食通が愛する歴史ある店が静かに暖簾を掲げています。明治35年創業の『三角』は、東京におけるふぐ料理の草分け的存在。高級なイメージのあるふぐを、手に届くお値段で楽しめる、昼酒にも最適な一軒。嬉しいことに、一人鍋(お一人様)も受けてくれます。
明治から続く路地裏の名店で過ごす昼下がり

雷門周辺の喧騒を離れ、国際通りの一本手前の路地へ。浅草は古くからの信仰の地であり、かつては日本一の繁華街として文化を発信してきた街です。そんな浅草の変遷を明治35年(1902年)から見守り続けてきたのが、ここ『三角(さんかく)』です。

創業120年余り。老舗の風格を感じさせる店構えですが、一歩入ればそこには下町らしい温かみのある空間が広がります。かつては畳敷きでしたが、現在は全席掘りごたつ式に改装されており、足を伸ばしてゆったりと過ごせます。

店名の『三角』。不思議な響きですが、看板の『角』の字をよく見ると、真ん中の縦棒が下へ突き抜けています。これは「成長を止めない」という粋な縁起担ぎなのだそう。
今回は、お昼の少し遅い時間、13時頃に暖簾をくぐりました。お目当ては、一人でも楽しめる「ミニふぐ会席コース」。2,800円(税別)という破格の設定で、ふぐ料理の定番をしっかり楽しめるオトクなセットがあるのです。
三千円のミニ会席に追加した、極上の焼き白子

まずはビールで喉を潤しましょう。浅草といえば、隅田川の対岸に本社ビルを構えるアサヒビールのお膝元。よく冷えたアサヒスーパードライの中瓶で乾杯です。

ミニ会席コースは、先付から始まります。ふぐの煮凝りや唐揚げなど、最初の一皿からふぐ尽くし。続いて運ばれてくる「ふぐ刺し(てっさ)」も、ミニコースとは思えないしっかりとした量があります。

透き通る身を数枚まとめて箸でとり、ポン酢にくぐらせて口へ運ぶと、ふぐ特有の心地よい弾力と淡白ながらも奥深い甘みが広がります。

ここでたまらず日本酒へ。せっかくですから、別注文で「ふぐひれ酒」(820円)をお願いしました。蓋を開けた瞬間に広がる香ばしい薫香。熱々の飛び切り燗にされた菊正宗に、炙ったヒレの旨味がじわりと溶け出しています。

マッチでポッと火を点ければ、アルコールが適度に飛び、まろやかさが増します。冬の浅草で味わうひれ酒、大人ってすばらしい。

そして、今回のもう一つの主役が、追加で注文した「ふぐ白子焼」(時価・この日は2,000円ほど)。冬の時期だけの贅沢です。焼き立ての白子は、ぷりっと張りがあり、箸を入れると中はとろりとクリーミー。

非常に上品で、ふぐ刺しで繊細に感じていた旨味が、この白子にはぎゅっと凝縮されています。濃厚なコクは、鱈の白子とはまた違う、洗練された味わい。

コースのメイン、ふぐちり(てっちり)へ。『三角』の鍋には大きな特徴があります。
50年以上使い続けているという鍋は、銅と錫(すず)の合金製。熱伝導率が良く、ムラなく火が通る優れものです。また、縁が広く作られており、吹きこぼれにくい工夫がなされています。

昆布出汁にふぐのアラを入れ、野菜や豆腐とともに炊いていきます。豊洲で吟味されたふぐは身離れがよく、骨の周りの一番美味しいところをせせりながら、ひれ酒を啜ります。

鍋の締めくくりは、やはり雑炊です。

ふぐや野菜から出た旨味たっぷりの出汁を、ご飯が一粒一粒吸い込みます。

溶き卵でふんわりと閉じ込めれば、文句なしの美味しさ。身体の芯から温まり、お腹も心も満たされました。
粋な江戸っ子気分で、昼から鍋をつつく贅沢
かつてふぐは関西の食文化というイメージがありましたが、ここ浅草には明治から続く東京ふぐの歴史があります。『三角』の魅力は、その歴史を背負いながらも、決して敷居を高くせず、日常の延長でふぐを楽しませてくれる大衆的な存在。銀座や日本橋の高級店、百貨店の中にはいる有名和食店はいうまでもなくよい店ですが、私は下町情緒が残るこうした個人店で過ごす時間が大好きです。
ミニ会席なら2,800円から。そこに好みの単品を追加して、自分だけのコースを仕立てるのも楽しみの一つです。満足するまで飲んで食べても1万円ほどで十分楽しめます。ちょっとした晴れの日などにぜひ。
| 店名 | 三角 |
| 住所 | 東京都台東区浅草1丁目20−7 |
| 営業時間 | 12時00分~15時30分 16時30分~20時00分 水曜日定休 |
| 創業 | 1902年 |
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