盛岡といえば、わんこそば、冷麺、じゃじゃ麺という「盛岡三大麺」が有名ですが、そうした観光的な楽しみとは別に、地元の方が日常的に通う素晴らしいお蕎麦屋さんが街に根付いています。
明治17年創業の『直利庵』は、ハレの日の食事から普段の昼酒まで、盛岡市民の胃袋を支え続けてきた老舗。今回は、わんこそばだけではない、同店の奥深い魅力をご紹介します。
変わらない佇まい、盛岡の社交場

新幹線で盛岡駅に降り立ち、まっすぐ路線バスに乗って盛岡バスセンターへ。そこから少し歩くと、歴史を感じさせる風格ある建物がみえてきました。周囲の景色が変わっても、ここだけはずっと変わらない。そんな安心感があります。

創業は明治17年(1884年)。屋号の「直利(ちょくり)」は、鉱山で良い鉱脈に当たることを意味する「大直利(おおなおり)」に由来するそう。かつては旦那衆や芸妓さんが集う社交場でもあったそうで、今でも店内には多くの部屋があり、当時の華やかな空気がそこはかとなく漂っています。
まずはサッポロで乾杯、そして「蕎麦前」へ

150席もある広い店内ですが、老舗らしい落ち着きが心地良い。席に着いたら、まずはこれでしょう。 サッポロ黒ラベルの中瓶をもらって、乾杯!

お通しをつまみながらメニューを眺めていると、「イカの酒盗」の文字が。

三陸の海の幸も豊富な岩手県ですから、期待が高まります。
運ばれてきたイカは、想像以上のボリューム。これはお酒が進んでしまいます。旨味がとにかく強く、塩辛さではなく、コクによってお酒が引っ張られる感覚です。

ここでおもしろいのが、お酒の呼び方。
一般的に「蕎麦前」といえば、お蕎麦を食べる前にお酒とおつまみを楽しむ行為全体を指すことが多いですが、こちらでは日本酒そのものを「蕎麦前」と呼ぶようです。
「蕎麦前、ください」と注文するのは、なんだか粋な気分。地元・岩手の銘酒「鷲の尾」をいただきます。

老舗の矜持が感じられる
直利庵がすごいのは、150年以上の歴史にあぐらをかいていないところ。
お蕎麦の命である「水」は、敷地内に掘られた井戸水(水質検査済みとのこと)を使用。そして出汁に使う鰹節は、注文のたびに削りたてを使うという徹底ぶり。
こうした基本を磨きつつさせつつ、時代のニーズに合わせて進化させてきたメニューも大人気です。
実はここ、お蕎麦屋さんでありながら「カツ丼」と「中華そば」がとてつもなく美味しいのです。お隣のサラリーマングループが美味しそうに手繰っていました。
常連さんの多くが注文する中華そばは、蕎麦つゆの「かえし」を使った、お蕎麦屋さんならではの甘めのスープ。カツ丼も、こだわりの出汁と、飴色になるまで煮込まれた甘い玉ねぎが特徴です。お腹に余裕があれば、ぜひ試していただきたい逸品です。
井戸水が磨く、洗練された更科そば

お酒とつまみで良い気分になったところで、メインのお蕎麦へ。今回は「天ざる」を選びました。

運ばれてきた天ぷらは、海老をはじめ山の幸、海の幸が盛りだくさん。衣は控えめでサクサクと軽く、素材の味が引き立ちます。嬉しいのは、そばつゆとは別に天つゆが付いてくること。こういう細やかな気配りが、老舗の良さですね。


お蕎麦は白く美しい更科系。井戸水でキリッと締められており、のどごしが最高です。少し甘みのあるまろやかなつゆが、繊細なお蕎麦によく合います。

ちなみに、お酒好きの方には「酒そば」という粋なメニューも。お酒で蕎麦をほぐしながらいただくという、まさに大人の遊び心がつまった一品です。
盛岡に着いて最初の食事。観光名物も良いですが、地元に愛され続ける「街と歩む老舗」で、ゆったりと蕎麦前を楽しむ。そんなスタートはいかがでしょうか。
ごちそうさまでした。
店舗詳細


| 店名 | 直利庵 |
| 住所 | 岩手県盛岡市中ノ橋通1丁目12−13 |
| 営業時間 | 11時00分~15時00分 17時00分~20時00分 水定休 |
| 創業 | 1884年 |
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