南千住6丁目、下町風情を色濃く残す小さな商店街にその店はあります。創業から95年、4代目が暖簾を守る『甲州屋』です。かつての工業地帯からマンションが立ち並ぶベッドタウンへと移り変わる街で、変わらぬ姿で続いてきました。斜向かいには角打ち「モリタヤ酒店」もあるので、セットで訪ねてみてはいかがでしょう。
昭和の蕎麦屋の風情そのもの
この界隈は、かつて製紙工場などが立ち並ぶ工業地帯で、「板紙(ボール紙)」発祥の地でもあります。大きな工場の周りには関連する町工場も多く、『甲州屋』も当時はんで大いに賑わったことでしょう。家族経営の町のお蕎麦屋さんとしては規模が大きく、ちょっとした工場の社員食堂のような雰囲気。

外観も店内も、まるで昭和の時代からそのままタイムワープしてきたかのようで、レトロ商店好きにはたまらない空間だと思います。

高い天井が開放的で、壁にはずらりと品書きが並びます。夕方になると出前の電話がひっきりなしに鳴り、4代目のご主人がスーパーカブで軽快に運んでいく姿は、これぞ「町の蕎麦屋さん」という風情です。

東京の老舗蕎麦屋というと、のれん会に名を連ねるようなお店を想像しがちですが、『甲州屋』のように地元に根差し、世代を超えて愛されてきた個人店もたくさんあります。こうした店々を巡るのも東京らしい蕎麦文化の楽しみ方だと思います。
赤星で始める大衆的な「蕎麦前」
さて、まずは瓶ビールをお願いします。出てきたのは「赤星」(サッポロラガービール)!これは嬉しい。

おつまみは、街の蕎麦屋としては揃っている方です。「かまぼこ」(板わさ)をもらいましょう。
特別に派手さはありませんが、BGMはなく、テレビから流れる夕方の情報番組をぼんやりと眺めながら赤星を注ぎ、いたわさを一口。なんとも落ち着くひとときです。
品書きを眺めると、蕎麦・うどんの種類が実に豊富。「麻婆茄子蕎麦」や「すき焼き鍋うどん」など、気になる変わり種も並びます。
先客に倣い、締めの「肉なん蛮」
お酒も進み、常連さんらしき先客のご隠居さんに目をやると、「蕎麦焼酎の蕎麦湯割」で「さつま揚げ」を楽しんでいます。いいですね。そして締めには「肉なん蛮」を注文されました。

これは美味しそうだと思い、私も同じ「肉なん蛮」をお願いすることに。

しばらくして運ばれてきたのは、想像以上に豪華な一杯。

丼の表面を覆い尽くすほどの豚肉、鮮やかなインゲン、そしてトロトロになったネギがたっぷりとのっています。

つゆを一口。濃いめで出汁がキリッと効いた、これぞ東京らしい味わい。この力強いカエシと豚肉の脂の旨味は、相性抜群です。

蕎麦は細く、色白。温かい蕎麦ですが、しっかりとコシが残っています。手繰り始めると、さっきまで飲んでいたお酒の手が止まり、夢中になって喉へと流し込んでしまいました。
千住南宿の歴史散策とセットで訪ねたい町蕎麦
創業95年、4代目が暖簾を守る『甲州屋』。 工業地帯から住宅街へと姿を変えた南千住の歴史を見つめ、地元の人々の胃袋を支え続けてきた、まるで昭和のタイムカプセルのような存在です。
お店の近くは、かつて日光街道最初の宿場「千住南宿」として栄えた地域でもあり、訪れる前の歴史散策も楽しめます。 都電荒川線の「荒川区役所前駅」からも徒歩圏内。昭和の風情が色濃く残る空間で、ゆったりとした「蕎麦前」を楽しんでみてはいかがでしょう。
店舗詳細


| 店名 | 生蕎麦 甲州屋 |
| 住所 | 東京都荒川区南千住6丁目15−1 |
| 営業時間 | 11時00分~15時00分 17時00分~20時00分 日曜日定休 |
| 創業 | 1930年 |
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