豊洲市場といえば、寿司や海鮮丼を食べに行く場所という人が大半だと思います。ですが、広大な市場の中に、日本蕎麦屋がたった一軒だけあるのをご存知でしょうか。水産ではなく青果の市場人が愛する「富士見屋」。旬の野菜の美味しさを知り尽くした食材のプロたちが通う、とっておきの一軒です。
観光客は知らない、青果棟に佇む働く人のための店

お店があるのは、5街区・青果棟の1階。観光客で賑わう寿司店の大行列を横目に、少し落ち着いたエリアへと進んだ先に「富士見屋」の暖簾はあります。隣には同じく築地時代からの人気店「大和寿司」や「天房」が並び、早朝から活気に満ちていますが、富士見屋の前はだいたいの方が素通り。

店内は作業着姿の関係者ばかり。カウンターとテーブル席が並ぶ、気取らない市場食堂の雰囲気。市場で働く人々がほっと一息つく、日常の空気が流れています。
年間を通じて低温環境下で働く人々にとって、一杯の温かい蕎麦や天ぷらは心安らぐ存在なのでしょう。
秋の恵み「きのこづくしの冷やしぶっかけ」を味わう

市場内飲食店の素晴らしいところは、ほとんどのお店で早朝からお酒が飲めるということ。ここ富士見屋も、ビールはもちろん、日本酒やウイスキー・ハイボールも取り扱っています。朝から飲みたい人にはうってつけの場所なんです。
それでは乾杯!

今回は、秋口にぴったりの「きのこづくしの冷やしぶっかけ」(1,200円)を注文しました。

キリッと冷水で締められ、しっかりとしたコシのある蕎麦の上には、揚げたてのきのこの天ぷらが山のように盛られています。




しめじ、舞茸、エリンギ。さすがは青果棟にあるお店、きのこの香りが豊かで、噛むほどに旨味がじゅわっと広がります。

つゆは、出汁の効いた濃いめの関東風。このキリリとしたつゆが、天ぷらの油と蕎麦の風味を絶妙にまとめ上げます。

七味をぱらりとかければ、全体の味が引き締まり、夢中で箸を進めてしまいました。
豊洲市場では、意外なほど野菜を主役にした食事処は多くありません。そんな中で、旬のきのこや野菜を最高の状態で天ぷらにしてくれる蕎麦屋は、まさにやっちゃ場(青果市場)の恵みを実感できる貴重な存在です。築地から通っていますが、豊洲に移ってから、より一層、旬の活かし方が巧みになったように感じます。


寿司もいいけど、やっぱり蕎麦も好き
築地から続く、市場唯一の江戸蕎麦店。豪華な海鮮丼も魅力的ですが、日本の台所を支える人々が愛する、気取らない一杯の蕎麦には、また違った豊洲の魅力が詰まっています。寿司店の大行列に心が折れそうになったとき、思い出してみてはいかがでしょうか。きっと、しみじみと美味しい時間が待っています。
店名 | 生蕎麦 富士見屋 |
住所 | 東京都江東区豊洲6丁目3 五街区青果棟 |
営業時間 | 6時30分~14時00分 水日などの休市日休み |
歴史 | 築地市場時代から長く営業 2018年豊洲移転 |