上野「たる松本店」 ガード下で70年、王道の酒と肴を気どらずに


愛してやまない飲兵衛が集う街、「上野」。不忍池を中心とした江戸時代から続く行楽地の名残を保ちつつ、昭和の懐かしいムードも随所から感じられ、時間旅行をするような錯覚が楽しめます。また、お酒好きとしては、マルイの裏からJRのガード下にかけて広がる巨大な「酒場特区」は、東京を梯子酒する上で欠かすことの出来ないエリアです。

この街を飲み歩く”地場の主”たちと頻繁に連れ立って梯子酒を楽しんできた場所であり、今でも月に数回は終電ギリギリまで梯子をしている街です。

いくつも好きなお店がありますが、今回は戦後直後に食堂としてこの地で創業した「たる松」をご紹介します。

大規模に行われているJRの鉄道高架設備の耐震工事の一環で、一時本店は閉店し、御徒町寄りの仮店舗で営業していたのですが、2016年冬、無事に元あった場所に戻りまして再オープン。食堂から酒場へ業態を変えたのが約50年前と聞きますから、半世紀ぶり・第二の創業といったところでしょうか。

 

店構えや内装までも、極力昔のままを維持されたそうで、1階はなんとなく明るく感じる以外は、白木のカウンターまで昔とまったく同じです。二階のコの字も変わらない。お姉さんに「キレイになりましたね、復活おめでとうございます。」と話すと、「仮店舗のほうが使いやすくてよかったわよ」(笑)とのこと。言葉と裏腹に、とっても嬉しそう。

 

ビールは酒場になってから半世紀、ずっとサッポロ。生は黒ラベル、瓶でヱビスと赤星も置いています。東京のビール・サッポロビールにとっても上野エリアのアイデンティティ的な存在であることは間違いない。

鮮度、洗浄、温度、ガス圧ばっちり、上野を代表する老舗酒場の一杯は極上です。乾杯!

 

ハイボールはデュワーズ、ホッピーセットもあり、常連は一杯目の樽酒のあとは和ら麦のロックを注ぎあっている光景が多い。

 

昭和29年、まだまだ正規の日本酒がまともに流通していなかった時代に、本物の酒を飲ませる店にしようという想いから、樽酒を仕入れて並べたのが酒場となるきっかけ。その際に、初代社長の吉松さんの「松」をつけて、「たる松」となりました。

現在も四斗樽で仕入れているものが3種類。秋田の高清水、三原の酔心、そして灘の菊正宗です。樽酒のほかに、純米吟醸、吟醸、純米、本醸造、普通酒と定番が並びます。さらに日替わりで各地の日本酒がゲスト参加するため、その種類は実に豊かです。

いまでこそ、日本酒の品揃えや製造工程の違いを楽しませる「クラフト酒専門店」は若い人向けに登場していますが、ここはそのご先祖様のような店です。

ちなみに、なんでも純米や吟醸を飲むのではなく、司牡丹の普通酒だって実に美味だということはお伝えしたい。

 

お酒の肴は海鮮を中心にいろいろと揃います。魚介類は、魚河岸でその日仕入れたものを使うこだわりで、夏には鱧の湯引きまでお目見えします。

 

樽酒のインパクトが大きいのですが、肴も誰と一緒に来ても喜ばれる安心の品質がでてきます。

 

大分の西の関、かっこいいチョイス。国東半島の先っちょにある萱島酒造の酒で、普通酒から純米までどれも愛してやまない味です。

 

年末年始以外は無休の店ですが、魚河岸が動いている日であれば一品目は必ず刺盛りと決めています。3点900円、この厚み、ものの良さ、割烹的な仕事がされているのが素敵でしょう。酒造会社の跡取りの友人曰く、刺身にビールはナンセンスということですが、いやいや、私はこれで育っちゃったから(笑)

 

とはいえ、まぁ正しい組み合わせを記事にしなくては、ということで焼鳥と赤星を。頭上を走る高崎線のリズムを耳にしながら、この組み合わせ。ザ・東京ガード下酒場。

さらりとした醤油がきいたタレを重ねて焼いた焼鳥で、これもおすすめです。

 

キクマサにあるような、出荷時から瓶詰めされている樽酒と違い、店に届いて注がれるギリギリまで樽で眠っているのがここの酒。薄い皿に杉の一合枡。思わず、「ふへへ」と声が漏れそうになります(笑)

升の角に塩をひとつまみ、もっきりスタイルで角を打とう。いつも、枡で飲む樽酒には上品な甘さを感じられ、なぜか「ケーキみたい」と思うのですが、どなたか共感していただけるでしょうか。

 

続いて広島を代表する銘酒・酔心。横山大観が愛飲したことでも知られていますが、超軟水のふっくらとした味わいは誰だって好きになるはずです。若い醸造家がつくる華やかなお酒もいいけれど、老舗の樽酒だって負けてはいない。

 

あわせるは広島繋がりでカキフライ。濃厚な味がじゅっと広がり、それにすかさず樽酒酔心を当てていきます。あぁ、幸せ。

 

美味しい肴は、延々と日本酒が飲み続けたくなる。たる松はまさにそんな酒場です。時代に合わせた華やかな店も楽しいですが、変わらぬ味、変わらぬ客層のたる松も大変いいものです。これから先の50年、私も通い続けたいと思います。

近くに系列の「たる松上野店」がありますが、内容は結構違う(仕入れまで違うらしい)ので、両方覗いてみるのもマニアな楽しみ方ですよ。あとは、朝から通しで飲めるので昼酒派の方にもおすすめ。

今夜は日本酒かな。ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

全国銘酒 たる松 本店
03-3834-1363
東京都台東区上野6-4-13
7:00~23:00 (年末年始以外は無休)
予算2,400円



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


こちらの記事もどうぞ



«