いまでは定番になった料理にも、発祥の店は存在します。せいろの蕎麦を鴨汁につけて食べる「鴨せいろ」の発祥は、銀座一丁目にある『銀座長寿庵』です。昼は会社員の昼食処として忙しい店ですが、日本酒やつまみも充実しており、夜は「蕎麦前」を楽しむ人たちがくつろいでいます。
「鴨せいろ」誕生のキッカケは鴨南うどんの汁
同じ銀座でも旧三十間堀川より築地側(隅田川寄り)、かつて「木挽町」と呼ばれていた地域は、下町の風情を色濃く残しています。老舗の飲食店が多く、食いしん坊やお酒好きには探索が楽しいエリア。例えば、昭和10年創業の『銀座長寿庵』も魅力的な一軒です。
『銀座長寿庵』は鴨せいろ発祥の店として知られており、いまも看板料理はもちろん鴨せいろ。濃厚な味乃鴨汁が大きめのお椀いっぱいに出てくるので、これが酒の肴にもなります。ということで、たまには「鴨せいろ」で”一杯やろう”と思い、原稿そっちのけでやってきました。
銀座という立地や、発祥の店という背景があると、どうしても格調が高いイメージがありますが、店の雰囲気は町のお蕎麦屋さんそのもの。筆者のようなタイプもふらっと立ち寄れます。こぢんまりとまとまった一階ですが、二階にもテーブル席があり、50人近くは入れそうです。
居酒屋での飲み始めはビールからと決めていますが、今日はお酒を飲もうとやってきたのですから、最初から菊正宗のお燗をもらいました。瓶ごと燗をつけられる1合瓶。可愛らしいフォルムでしょ。
それでは乾杯!
関東を中心に「長寿庵」という屋号の蕎麦店は非常に多く、200軒近くありますが、その原点は1704年、蒲郡出身の人が京橋五郎兵衛町(現在の八重洲の一部)に「長寿庵」を開いたことが始まりと言われています。
現在は3代目となる『銀座長寿庵』も暖簾分けで開業した店の一つです。鴨せいろは長く受け継がれてきたものではなく、誕生は店の案内によれば1963年と「長寿庵」の歴史を考えれば、ごく最近のこと。二代目が、せいろの冷たい蕎麦を鴨南うどんの汁につけたところ美味しかったため、商品化したそうです。
冷たい蕎麦を温かい汁で食べるというのは珍しく、鴨せいろ専用の汁を生み出したとのこと。
銀座長寿庵は盛りがいい。普通盛りでもこれだけでてきます。蕎麦だけでなく、今日の主役、鴨汁も大きなお椀いっぱいにでてきますし、合鴨肉やネギもたっぷり入っています。
まずは蕎麦…、ではなくて、まずは合鴨肉を。しっかりとした弾力があり、噛むほどに肉汁がでます。肉の脂をすったクタクタなネギも、それだけで日本酒を誘います。
菊正宗をもう一本。お燗の温度と、鴨汁の温度がぴたりと重なると、これがたまらなく味覚をくすぐります。蕎麦、汁、キクマサの繰り返し。もちろん、店の三階で打っている蕎麦の喉越しのよさも大切です。
蕎麦湯を注ぎ、軽く七味を一振り。最後まで満足感の高いおつゆです。
品書き
ごちそうさま
『銀座長寿庵』は、鴨せいろ発祥というだけでなく、落ち着いた雰囲気でゆったり飲める素敵な蕎麦店でもあります。銀座散策のあとにふらっと立ち寄られてみてはいかがでしょう。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | 銀座 長寿庵 |
住所 | 東京都中央区銀座1-21-15 |
営業時間 | 営業時間 【ランチ】11:00~15:00 (L.O.14:50) 【ディナー】17:30~22:00(L.O.21:20) ※土曜はランチのみ 11:00~14:00(L.O.13:50) 定休日 第2・第4土曜日 日曜日・祝日(1、8月のみ土休) |
創業 | 1935年4月29日 |
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