築地「辰の字」 頬が緩む上質な焼鳥を肴に、榮川をちびり、ちびりと。

築地「辰の字」 頬が緩む上質な焼鳥を肴に、榮川をちびり、ちびりと。

中央卸売市場が移転しても食の街として活気で満ちている築地。場外市場の老舗中華も、新富町の裏路地にある立ち飲みも、明石町の天ぷら屋も、どれもが築地らしさをもって輝いています。隣接しているきらびやかな銀座とも、ノンベエで賑わう新橋とも違う、美味しいものをじっくり楽しむ築地の老舗暖簾をくぐってみませんか。

ここは築地本願寺のすぐ横にある焼鳥の「辰の字」。創業34年になるお店で、焼鳥屋になる以前は場外の食堂をされていた築地に根付いた飲み屋です。

 

早い時間から界隈の常連さんが集まるカウンター。見上げれば立派な千社額に界隈の屋号がずらり。隅々まで手入れがされていて、老舗といっても、パリっとした印象がありとても心地良いです。

 

さて、白木のカウンターに座るといつもより少し背筋がぴんとするのですが、ここでもそう。

 

悩むことなく、一杯目はおなじみのビール(中600円)から。銀座で創業し、恵比寿でビールをつくった日本麦酒は、食の街・築地に縁が深く、町内の催しでは、日本麦酒・現在のサッポロビールが関わることが多いです。そんな背景もあって、ここで飲むヱビスは格別なのです。では乾杯!

 

ビールは樽生のみ。日本酒は会津磐梯の榮川が定番です。色付きの焼酎ハイボール、バイス、レモンハイ(各400円)で、喉の渇きを潤すのも良いですね。

 

焼鳥の店「辰の字」。昼食時間帯に提供されている親子丼が美味しいと界隈のビジネスマンに人気ですが、夜の鳥料理もどれも丁寧な仕事を感じる絶品揃い。

お通し(200円)は、鶏モツの煮込み。鶏の静かでじんわりくる旨味が心地よく、味が染み込んだ豆腐にヱビスビールの苦味が絶妙にマッチします。

 

鶏は大山鶏を使用。炭火でじっくり焼く大将を前にして飲めるカウンターは香りもおつまみです。串は180円からで、ひな、ねぎま、レパ、ハツなどに加え、鶏の腎のぞう”せぎも”があります。

 

おつまみも鳥料理中心。と思いきや、定番メニューに「ままかり」があるのを見逃せません。加えて魚介類などが日替わりとして短冊にて加わります。

 

かつおとまぐろの中落ち盛り合わせ(750円)。鶏が焼き上がるまでの”つなぎ役”なんて申し訳ない、主役級の一皿です。

 

よい肴には、よいお酒を。榮川のぬる燗をちびりと含みつつ、余韻に爽やかな酸味を楽しむかつおを一口。

 

みつくろい5本(950円)。ねぎま、合鴨、ひななど。お銚子をもう一本もらって、さぁ、至福のとき。

 

部位ごとにことなる食感。そしてじゅっと広がる頬を緩ませる旨味に悶絶の境地。心の中では、「わーわー!」と叫びながら、しずかに背筋を伸ばし、ちょこんとおちょこを口に運び、背筋をぴんとする。

 

ほろ酔いですこし火照ってきたところには、東京のやきとりのお供、焼酎ハイボールを。エキスをいれた色付きの甲類焼酎に、コダマの炭酸を注ぎます。

 

魚だけではない築地の食とお酒。八百屋や魚屋、酒屋など各分野の専門家が集まる街の老舗酒場はいいものです。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

鳥焼 辰の字
03-3546-2162
東京都中央区築地3-14-5
17:00~22:00(土日祝定休・ランチ営業あり)
予算3,000円