新宿が好き。日本全国、さまざまな飲み屋街を巡っていても、椅子に根を張り、時間を気にせず開放できる街は、新宿です。
どの角にどの酒場があり、何時頃に混んでいるかもわかる。たまには会いたい顔が待っている。思い出横丁の中華屋のギーギー鳴る丸イスにも、歌舞伎町のもつ焼き屋の炭の香りも、ゴールデン街で親から受け継いだニッカのボトルにも、三丁目の地下にある酒場の箸置きにだって、想い出が詰まっています。
池林房でサッポロを飲んで笑っている今は亡き母の写真をみると、母娘そろって同じことをしているなと笑ってしまうのです。と同時に、新宿の飲み屋街そのものが私の親のように思えてくるのです。
私事が増えてしまいました。今回は、そんな新宿の歴史に新たに想い出育む良いお店ができたので、ご紹介します。場所は、新宿御苑駅から徒歩2分。084と書いて、オハシと読みます。
ご主人は、三丁目の池林房で長く働かれていた方。接客のリズムや料理の安心感は池林房そのもの。カウンター割烹の配置で、調理風景を眺めながら、ご主人との会話を楽しみながら食事ができます。
ビールはサッポロのラグジュアリービール「ヱビス マイスター 匠の逸品」の樽生です。マイスターの生が飲める酒場はこの界隈では珍しく、新宿1丁目という立地もあいまって、大人の新宿という雰囲気です。では、乾杯。
ワインは3,000円/本から。価格設定は新宿のお店の平均的な価格帯かな。
日本酒は日高見や天の戸、福祝などくすぐられる顔ぶれです。
気になる料理ですが、その前に、空間が大変美しく、上品なまとまりなのが素敵。無垢のカウンターはもちろん、細部まで大変心を込めて店作りをしていることが伝わってくるのです。それは、この卯の花の食器からもわかる通り。
料理は、寒ブリのみぞれ造り(950円)、銀だらの西京漬け(700円)、帆立と里芋のグラタン(700円)など。
おまかせ3品(1,600円)ならば、程よい量を楽しむことができるのでおすすめ。取材時は、真あじの酢じめ(750円)をいただきましたが、期待を裏切らない、のんべえ好みのいいものが楽しめました。
自家製のポテトサラダは濃厚な味で、ビールや味のしっかりした日本酒との相性が抜群。
ひとつひとつの料理が実に丁寧で、調理風景というなによりの肴とあいまって、ザ・大衆酒場とは違う、新宿のカウンター飲み屋ならではの心地よさが感じられてくるのです。
日本酒はお猪口を選べます。スズにしますか、それとも焼ものに。え、一番深いやつを選ぶはずだって?
浦霞をぬる燗にしてもらい、きゅっと一献。ああ、いいじゃない。
卵焼きを肴に、少し思い出話を。池林房のマスターも散歩がてらいらっしゃるそうで、新宿で生きる人達の息遣いを感じられるのが、思い入れがあるだけに楽しい。
〆の一品にも、新宿の”飲み屋”に似合う、不思議な名前がちらほらと。
新宿で遊んできた皆さん、とくに三丁目で池林房(昭和53年創業)を中心に飲み歩いてきた皆さん、ひさしぶりに、あの気分をいつもと違った空間で味わってみてはいかがでしょう。三丁目まではあっという間。梯子酒の前に一献、あの時代の自分に戻ってみるのも、楽しいのでは。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材協力/サッポロビール株式会社)
醉暦 084
03-6380-6663
東京都新宿区新宿 1-11-7
17:00~24:00(日定休・祝は予約に応じて)
予算3,800円