東京のあらゆる繁華街を飲み歩き、どの街でも勝手知ったる我が家という感覚でまぁ緊張感もなくはしゃいでいる私。でも、神楽坂だけはちょっと違うんです。この街も飲み屋街であることには変わりないのですが、なんというか自分の居場所が少ない感じ。
銀座だって日本橋だって、顔なじみのお店がずらりと揃っているのに、なぜか神楽坂はちょっと怖い。お洒落な雰囲気が肌に合わないのか、芸能人がお忍びで…なんていうお店が苦手だからかも?
そんな神楽坂で、ほっと出来る数少ない大衆的な酒場を今回紹介します。私みたいなどっしり構えた老舗酒場が好きな人に必見のお店「樽八」です。
飯田橋駅から徒歩数分。アクセスがよくて、メインストリートの早稲田通りからも程近い路地裏にあるここは、この界隈の飲み屋でも古参に入る飲み屋です。
大きな赤提灯に黄色い看板。郷土料理をうりにしていますが、基本的には東北地方の料理をメインにしているお店です。
ご夫婦で切り盛りされていて、接客から料理までもをこなす女将さんはこの界隈でちょっとした有名人。長年ここに通う人も多く、私の知人にもここの女将さんに頭が上がらない人がいます。
老舗酒場の証、サッポロビール旧CI(コーポレートアイデンティティ)の赤い星がついたジョッキが今も現役。ここの生ビールは質がイイです。
では、黒ラベルで乾杯です!
定番はところてんゆ畳鰯、納豆系といった昔の酒場によくある品揃え。で、メインとなる料理はすべて日替わりです。かつお、鯛、くじら、にしん、活だこ、ほっき、ほたる、中落ち、〆鯖と、刺身だけでも9種類も。刺身の種類の多さは酒場の元気バロメーターだと思っているので、ここは実に素敵。
最近はニシンのお刺身が東京でも普通に流通するようになりましたね。
今回はタコで始めましょう。ささっと茹でただけの口の中で溶けていく食感は、飲兵衛の心を満たすのに十分すぎるほど。これにビールや日本酒が本当に良く合います。
お腹に少し入れておきたいので、肉じゃがも。女将さんの手作り肉じゃがは丸々のじゃがいもを2個もいれてくれます。味が染み込んでいて実にいい味。家庭料理の王様の肉じゃがも、やっぱり老舗の酒場で食べるほうが当然美味しい。
ここの定番酒がおもしろい。あまりメジャーではないのですが、愛媛県松山の人には馴染みのお酒・雪雀酒造です。生貯蔵酒なんて、この季節にぴったりでしょう。
季節でいえば、やはり外せないホタルイカ。今後の日本海を代表する肴はお猪口をあっという間に空っぽにさせます。
次はお燗酒に移りましょう。徳利をお燗用の湯煎器にいれて温める昔ながらの手法。これだと店内がほどよく加湿されるし、お酒も自然な熱の入り方で丸くなるからいいんですよね。電子レンジ使うのは自宅だけにしておきたい。
で、これをきゅっと。で、ふぅーっとね。
日本酒のチェイサー代わりとして愛飲ビールをもらうことに。さすが老舗でしょ、こういう歴史ある酒場には赤い星マークが良く似合います。
こまいの一夜干しなんて品書きを見つけたら、年配の男性だけでなくても頼みたくなっちゃうよね!もっちりとした食感と、寝かされて濃くなった海の味は、これまたお酒を次々引っ張っていきます。
この後も用事があるまで、できればお腹に隙間を作っておきたかったのですが、ここの居心地の良さにすっかり負けてニシンも焼いてもらいました。お刺身で出せる鮮度だから美味しいに決まってます。足の早い魚を美味しく出せるのは流石という感じ。
さて、これからぜひ食べておきたいものがここのホヤ。日替わりなのでいつもあるとは限りませんが、見つけたら絶対食べて欲しい逸品です。この鮮度の良さ、肉厚の立派なものはいいとこのお店でもないとまず食べられません。好物の方はぜひお試しを。
L字カウンターと少しだけあるテーブル。決して大きくはないお店なのですが、だからこそお店の方とのちょうどいい距離であり、神楽坂で飲んでいることを感じさせないホッとする空気が漂っています。
この街で自分の居場所を作りたくなったら、まずはここから試してみてはいかがでしょうか。
ごちそうさま。
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(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
樽八
03-3260-6663
東京都新宿区神楽坂1-11
17:30~23:00(日祝定休)
予算2,000円