一杯のビールは畑から生まれる。上富良野で『サッポロ クラシック』の故郷を訪ねた【北海道取材#3】

一杯のビールは畑から生まれる。上富良野で『サッポロ クラシック』の故郷を訪ねた【北海道取材#3】

私たちが飲む一杯のビール。その爽快な喉ごしや華やかな香りが、どこで生まれるかご存知ですか?答えは醸造所だけでなく、太陽が降り注ぐ「畑」にありました。今回はビールの聖地を巡る旅の第三弾。北海道限定ビールとして絶大な人気を誇る『サッポロ クラシック』の故郷、北海道・上富良野町を訪ね、その美味しさの秘密に迫ります。ホップの香りの奥深さに、あなたのビール観が変わるかもしれません。

(取材協力/サッポロビール株式会社)

※記事中の畑や研究所は一般公開されていません。今回は特別に許可をいただいて撮影しています。無断でのホップ畑・大麦畑への立ち入りはおやめください。

スポンサーリンク

都会の喧騒を抜け、ビールの原料が育つ大地へ

前夜はサッポロビール園でジンギスカンを満喫し、勢いのままネオンきらめくすすきのへ。数軒をはしごしてホテルに戻ったのは、すっかり日付が変わった頃でした。それでも翌朝はなんとか体を起こし、北を目指す旅を始めます。

札幌の市街地を朝7時過ぎに出発。高速道路をバスでひた走ります。車窓から見える景色が、都会のビル群から次第に雄大な石狩平野へと変わっていく様に、「ああ、北海道に来たんだな」と改めて実感します。

目的地は、北海道のほぼ中央に位置する上富良野町。JR線でもアクセス可能ですが、今回はバスの旅です。

札幌から約2時間半。お昼前に上富良野に入ると、そこには息をのむような景色が広がっていました。緩やかな丘陵地に、どこまでも続く畑。そしてその先には、十勝岳連峰の勇壮な姿がそびえています。

まず案内されたのは、ビール醸造に欠かせない大麦の畑です。黄金色に輝く穂が、涼やかな風にさわさわと揺れています。以前、アメリカのミルウォーキー近郊で地平線まで続く麦畑を見たことがありますが、山々に囲まれた盆地の中で、他の野菜畑とパッチワークのように広がる上富良野の景色は、どこか日本的で心が和みます。

畑の周りには動物の侵入を防ぐための電気柵が張り巡らされており、いかに大切に育てられているかが伝わってきました。

ホップと大麦、日本で唯一の「ビールの聖地」

実はこの上富良野町、ビールの主原料であるホップと大麦の両方を商業規模で栽培している日本で唯一の地域なのです。少し移動すると、今度は高さ数メートルにもなる「緑のカーテン」、ホップ畑が見えてきました。

サッポロ クラシックのCM撮影地としても使われた、代々続くホップ農家 大角さんの畑

この地がビールの原料産地となったのには、深い歴史があります。明治時代、開拓使がビール造りを始めるにあたり、お雇い外国人のトーマス・アンチセルが北海道で野生のホップが自生しているのを発見しました。ヨーロッパの産地に似た冷涼な気候も相まって、北海道が日本のビール産業の中心地に選ばれたのです。その歴史が、今もこの景色の中に息づいています。

サッポロビール博物館館長の資料を撮影

サッポロビール(当時は大日本麦酒)が本格的にこの地でホップ栽培を始めたのは1923年(大正12年)。当時の重役が、盆地状の地形が世界的なホップの名産地であるドイツのハラタウ地方にそっくりだと感銘を受けたという逸話も残っています。単に作物が育つというだけでなく、最高の品質を生み出す「テロワール(土地の個性)」を見抜いたのです。

サッポロビールの研究員さんが摘んだホップ

7月に訪れた畑では、ホップの雌花が球花(ビールの原料となる松かさ状の雌花)になる前の開いた状態でした。青々とした葉と蔓が太陽の光を浴びてぐんぐん育っている様子は圧巻です!

観光用ではなく、農家の方々がサッポロビールとの「協働契約栽培」のもと、丹精込めて育てているもの。

秋ごろにはビール大麦とともに醸造され、私たちの食卓に並ぶんですよね。ビールが大地と共にある自然の恵みであることを改めて実感させられます。

※ホップの「きゅうか」は、毬果とも書きますが、サッポロビールは「球花」と表記しているため、本記事でも球花を使用しています。

ビールの香りは畑で決まる。原料開発研究所で知るホップの奥深さ

畑で大地のエネルギーを感じた後は、サッポロビールの研究者の方に案内いただき、『サッポロビール 原料開発研究所』へ。ここで、私のビールに対する見方が、がらりと変わることになりました。

施設内では、様々な品種のホップや大麦の実物を見比べ、香りを体験させてもいました。ホップの球花を揉むと、中から「ルプリン」と呼ばれる黄色い粉末が現れます。これこそが、ビールの苦みと香りの源泉。その香りは、まさにビールの魂そのものです。

「こちらのホップの香りをかいでみてください。どのビールの香りか、わかりますか?」

研究員の方に勧められ、数種類のホップを嗅ぎ比べると、その違いに驚きました。同じホップという植物なのに、品種によって香りの個性が全く違うのです。

品種によって球花の形状は異なる

サッポロビールが生んだ伝説のホップ『ソラチエース』は、杉やヒノキを思わせる凛とした爽やかな香り。なるほど、ビール『SORACHI 1984』のあの個性的な風味は、まさしくこの香りです。一方で、北海道限定『サッポロ クラシック』に使われているホップは、もっと穏やかで清々しい香り。ビールの個性がいかにホップの段階で決まっているかを、身をもって体感しました。

この『ソラチエース』には、数奇な物語があります。1984年に上富良野で開発されたものの、そのヒノキのような個性的な香りは、当時の「スッキリ爽快」が主流だった日本のビール市場では受け入れられませんでした。活躍の場を失ったソラチエースはアメリカに渡り、そこでクラフトビールブームの火付け役たちに「発見」されます。そのユニークな香りが絶賛され、世界的な人気品種へと登りつめたのです。

2019年4月8日、発売直前に東京・恵比寿で開催されたプレスイベント

そして35年の時を経て、2019年に『SORACHI 1984』として商品化され、故郷へ凱旋を果たしました。

「この香りの組み合わせで、新しいビールの個性を生み出していくんです」。淡々と丁寧に解説してくださる研究員さん。一杯のビールの裏側には、こうした地道な研究と開発があるのだと知り、深く感動しました。

ほかにも、焙煎することでビールに香ばしさやコクを与えるクリスタル麦芽やカラメル麦芽の実物も試食。商品説明でよく目にする名前ですが、実物を見ると理解が深まります。

サッポロが扱う小麦麦芽…眺めていると、首都圏・愛知県限定の白ビール『白穂乃香』が無性に飲みたくなってきました。

地元名物「豚さがり」をつまみに、ここでしか飲めないビールを

すっかり知的好奇心が満たされたところで、お待ちかねの昼食、いえ、昼飲みタイムです。

上富良野には、地元の精肉店が生み出した「豚さがり」というソウルフードがあります。今回は特別に、この豚さがりとサッポロビールを合わせていただくことに。

豚さがりとは、豚の横隔膜のこと。一頭からわずか300gほどしか取れない希少な部位です。かつて養豚業が盛んだったこの町で、1962年創業の「多田精肉店」がその価値を見出し、商品化したのが始まりだとか。今では町民のバーベキューには欠かせない、まさに地元の味です。

用意されたのは、味噌ダレや塩タレに漬け込まれた艶やかな豚さがり。ジュージューと音を立てて焼き上げ、いざ口の中へ。柔らかいのにしっかりとした歯ごたえがあり、噛むほどに濃厚な肉の旨味と味噌の香ばしさが広がります。これは…ビールが止まりません!

そして、そのお供がまた格別でした。まずは定番の『サッポロ クラシック』。北海道で生まれ育ったサッポロビールが道産素材にもこだわったビールは、豚さがりの力強い味わいを爽やかに受け止めてくれます。続いては『SORACHI 1984』。ホップ由来の華やかな香りが、肉の旨味と驚くほど調和します。

さらに、この日のために用意された超レアな一本が『まるごとかみふらのプレミアムビール』。なんと、上富良野産の大麦とホップだけを使って作られた、この町でしか飲めないビールです。すっきりとしながらも、麦の優しい甘みとホップの穏やかな香りが感じられ、まさにこの土地の味がする一杯でした。

ビールが奉納される神社へ

美味しい食事とビールでお腹も心も満たされ、最後に訪れたのは上富良野神社。

緑豊かな静かな境内ですが、実は全国でも非常に珍しい特徴を持っています。

拝殿に上がると、神前には日本酒と並んで、なんとビールが奉納されているのです。それも、あの『SORACHI 1984』が。古来、神様へのお供え物「お神酒」は、その土地で最も大切にされている収穫物、つまりお米から造られる日本酒が選ばれるのが一般的。しかし、ホップ栽培と共に歩んできたこの町では、ビールもまた神様へ感謝を捧げるにふさわしい、大切な恵みなのです。

ホップと大麦が上富良野のアイデンティティ。ビールの聖地ならではのお神酒ですね!

札幌のサッポロビール博物館が「歴史の聖地」ならば、ここ上富良野は間違いなく「原料の聖地」。畑から始まり、研究、食文化、そして信仰まで、町のすべてがビールと共に息づいていることを肌で感じた旅でした。

ごちそうさまでした。一杯のビールの向こう側にある、壮大な物語に乾杯。

この取材は今回限りの特別な内容です。通常、ホップ畑・大麦畑・原料開発研究所への受け入れは行っていません。お問い合わせはサッポロビールのお問い合わせ窓口にお願いします。