大正3年(1914年)創業。浅草の娯楽文化とともに一世紀以上の歴史を重ねてきた老舗「翁そば」。圧倒的な人気を誇るカレー南蛮が有名ですが、常連さんや芸人衆が愛してやまない一杯があります。それは、品書きにはない裏メニュー「むじなそば」。江戸の風情を感じる濃いめのつゆで、キリンラガーをきゅっと流し込む。そんな粋な浅草での過ごし方をご紹介します。
演芸場のすぐ裏、そこは芸人たちのもうひとつの楽屋

浅草駅から徒歩10分ほど。浅草六区の賑わいの中に「翁そば」はあります。漫才の聖地「浅草フランス座演芸場東洋館」からは目と鼻の先。この場所柄、古くから出番前後の落語家や芸人さんたちが暖簾をくぐってきました。
観光地でありながら、価格は実に庶民的。近所のご隠居さんや、昔からこの界隈で商売をされている江戸っ子に愛される、町の蕎麦屋の雰囲気が心地よいです。

夜営業は19時半までと短め。開店直後は行列ができることもありますが、平日の18時頃は比較的落ち着いていて狙い目です。
品書きと店の作法

壁には年季の入った短冊メニューがずらり。一番人気は、三代目が考案したという辛口の「カレー南蛮」。多くの人がこれをめがけてやってきます。
ビールは瓶でキリンラガー。焼き海苔や板わさといった蕎麦屋定番の酒肴は見当たりません。ここでは蕎麦そのものが主役であり、肴なのです。「蕎麦で軽く一杯やって、さっとお暇する」のが粋な楽しみ方。長っ尻は厳禁です。

それでは、キリンラガーの瓶ビールをもらって、今宵の蕎麦を待ちましょう。乾杯!
これぞ通の味。裏メニュー「むじなそば」とラガービール

さて、ここで頼みたいのが、品書きにはない裏メニューの「むじなそば」です。常連さんの多くが注文する、知る人ぞ知る一杯。温かいものと冷やしが選べます。

ほどなくして運ばれてきた丼には、甘辛く煮込まれた油揚げと、揚げ玉がたっぷり。江戸らしい少し濃いめのつゆの色合いが食欲をそそります。
しっかり味が染みた油揚げ。これがまた、キリンラガーの心地よい苦味と相性抜群なのです。カリカリとした食感を残す揚げ玉も、つゆを吸って旨味を増していきます。

そして特筆すべきは蕎麦。稲庭うどんかと見紛うほどの太い平打ちの「同割そば」。武骨ながらも、もちっとした歯ごたえと確かな蕎麦の風味があります。パワフルな麺ですが、絶妙なバランスを生み出しているのです。
繊細なせいろを手繰るのとは違う、食べ応えのある満足感。庶民の味方、下町の蕎麦ですね。
大正から続く四代の物語

「翁そば」の創業は大正3年(1914年)。戦災で営業できなくなりましたが、終戦の5年後の1950年、二代目が店を再建。、物資が乏しい中で提供した「たぬきそば」が大人気となりました。
その後、三代目が名物の辛口の「カレー南蛮」を開発。たぬきそばの延長にあるむじなそばとカレー南蛮、両方食べてみたくなりませんか。
なぜ「むじな」?江戸っ子の洒落が効いた一杯

ところで、「むじなそば」とは何でしょう。これは一般的に、きつね(油揚げ)とたぬき(揚げ玉)を一つの丼に盛り付けた蕎麦を指します。
その名の由来は、「同じ穴のむじな」ということわざ。「一見違うように見えても実は同類」という意味で、同じ丼にきつねとたぬきが仲良く同居している様子をなぞらえた、江戸っ子らしい洒落の効いた呼び名です。
翁そばの「むじなそば」は、店の歴史と個性が溶け込んだ一杯。浅草散策の合間に、こんな粋な蕎麦屋酒を楽しんでみてはいかがでしょうか。
ごちそうさまでした。
店舗詳細
- キリンラガービール:700円
- もけ・かけ:550円
- 冷やしたぬき:650円
- 冷やしきつね:700円
- きつねとじ:750円
- 花まき:800円
- おかめ:750円
- おかめとじ:800円
- あんかけ:800円
- カレー南蛮:800円
店名 | 翁そば |
住所 | 東京都台東区浅草2-5-3 |
営業時間 | 11:45 – 15:00 16:30 – 19:30 日定休 |
創業 | 1914年 |