2013年より中井駅近くで営業していた鰻串の酒場「くりから」は、2018年11月より東中野へ移転し、現在に至ります。今年(2023年)で開業10周年。開業年だけ聞けば新しい酒場のようにみえますが、ご主人の鈴木規純さんは、鰻一筋の専門家です。
うなぎ問屋に勤めたのち、1968年に鈴木さんの祖父が開業した中野北口にある「川二郎」で8年間の修業を積み、それから独立・開業という経歴をお持ちです。残念ながら中井の店舗は再開発のため移転することとなり、現在は東中野に店を構えています。
杉並の鰻卸から仕入れた国産うなぎを毎日店で仕込むなど、そのこだわりは強い。それと同時に、情報発信も熱心でSNSなどで鰻の魅力を発信されています。さらに、鰻料理の傍ら、演劇の主宰という顔も持っています。
いまは、体力アップ、免疫力向上が大切な時代。栄養満点の鰻を食べて健やかに過ごしたいものです。
栄養価は高いけど、値段はお手頃というのが鰻串のよいところ。東京は昔から、鰻のアラ(肝)を出す飲み屋が多くあった街で”横丁や屋台の鰻で一杯やる”というスタイルは、のんべえの先輩方の健康維持の知恵だったのかもしれません。
煙が気になってもカウンターが醍醐味
店内に漂うこうばしい香り。
しゅっとした出で立ちでスマートに迎えてくれるご主人。その前に設置された焼台には、串打ちされた様々な鰻の部位が炭火で燻されています。
焼台を囲むカウンターはちょっぴりにおいは気になりますが、やっぱり特等席。テーブル席も多いので気になる方や、グループ利用はそちらへ。
新しい店舗ながら、すでに老舗の風格です。丸椅子が列ぶ一枚板の分厚いカウンターは、座ったものをずっと吸い寄せ続ける力を持っているかのよう。
東京の割材系サワーが豊富、料理はシンプル
瓶ビールをもらって、トクトクと注いだらすかさず乾杯です。
樽生ビールは、今年35年目を迎えた「キリンハートランド」。瓶ビールはキリンラガー(中びん600円)です。割り物が揃っており、博水社のハイサワーを使用するレモンサワー、コダマ飲料のバイスサワー、旧コクカ(現在のホッピービバレッジ)のガラナ、後藤商店のホイスと、よりどりみどり。
定番酒は高清水で、同社の営業も訪れるそうです。鰻にはお燗酒、これは鉄板の組み合わせですものね。
サイドメニューはとってもシンプル。とくに取材時(2020年12月末)はこんな時代ということもあり、品数をしぼって営業中。
通常時は、手づくりポテトサラダなども用意されいます。とはいえ、やはりシンプルにはかわりありません。
鰻串専門店は、全国的には珍しい存在。気になる鰻メニューがこちら。一般的な蒲焼きにあたるのは「まむし焼き」(1,100円)で、白焼きとタレの蒲焼きから選べます。もちろん焼く前に蒸し上げる東京式です。
そしてなにより、くりから(280円)を筆頭にした、鰻串が名物です。国産鰻でありながらも1本250円からという手頃な価格で摘めてしまえるのです。
鰻は身(正肉)だけでなく、頭からヒレのさきっぽまで全部食べられる魚です。栄養価の高いキモや皮は積極的に食べたいもの。
ここでしか食べられない鰻の部位を食べ比べ
鰻が焼けるまでのつなぎ役…以上の働きをしてくれる主役級がこちら「バラポンズ」※数量限定(500円)。
肋骨周囲の身で、弾力があり噛むほどに脂がにじみ出てきます。それでいてしつこさはなく、白焼きの余韻にあるような旨さがじんわりと続きます。
中瓶をすっと飲みきって、秋田酒類の清酒「高清水」のお燗をつけてもらいました。トクトクと注いで、きゅっと飲む。辛口一辺倒ではない、高清水の旨口が好きです。
白焼き(1,100円)がりました。塩とわさび醤油で飾らない味付けを。日本酒とあわせるならば、断然こちらを選びたいです。
醤油は風味づけ程度に軽く当て、ひとくち。溶ける脂は非常に濃厚でいやみは皆無。するりと鰻の身が舌をなでたあとに、すかさずお猪口を口へ。
白焼きと日本酒という正統派を楽しみました。つぎはいよいよ、酒場らしい鰻飲みへと参りましょう。飲み物は、甲類のキンミヤ焼酎ベースのホイス(450円)
ホイスは戦後、ウイスキーの代用などのニーズとして東京で次々誕生した色付き割材のひとつ。その多くは下町でうまれましたか、このホイスは山の手・高輪生まれです。
すっきりとした味の向こう側に、陶陶酒や養命酒のような漢方の風味を感じます。名前の由来はウイスキーからのホイスキー。
冷奴(250円)。
お手頃感抜群の鰻串、キモだけじゃない
カウンターに居合わせたお客さんの注文に、なんとなくタイミングを合わせたくなるのがノンベエというもの。お隣が頼んだら、「じゃあ、こちらも串を…」と、きっかけを得て私もオーダー。
左がカワで、右がバラ。どちらもふっくからと焼き上がっています。
さて、鰻の皮といえば、蒲焼きなどで身とともに食べるもので、それだけを食べる機会はまりありません。ではこの”カワ”はというと、鰻の尾に近い部位で身もついた部位。これをカリカリに焼き上げたものです。歯ごたえのある食感で、山椒を効かせて食べると実にお酒を誘います。
バラ(手前)は冷菜で食べましたが、串にしてもこれがまたいい味をしています。焼くことでよりジューシーさが強まるものの、炭火でだいぶ燻されたような味わいに仕上がっています。ぷりっとした食感もあとをひきます。
ガラナは、コーラのような飲み物。炭酸系の清涼飲料水ですが、割材のイメージが強いかも。
短冊(330円)。蒲焼きを串にした一品。白焼きよりも手頃なので、「鰻はせっかくだから正肉もひとくち摘みたい」というときにぴったり。
店名の由来のでもある「くりから焼き」。東京だと、うなぎ専門店でなくとも古くからやっている店は倶利伽羅焼きをおいていることもあるくらい、一般的(だった)なおつまみ。正肉の端などを巻きつけたものですが、食べ物は何でも端っこが美味しいものだと改めて感じさせてくれます。
長年続いている鰻の名酒場はもちろん大変素晴らしいですが、これくらい程よくライトな感じで立ち寄れるお店も良いものです。のんびりと落ち着いて飲ませてもらって、満足度の高い時間を過ごせます。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
店名 | うなぎ串焼き くりから 東中野店 |
住所 | 東京都中野区東中野3-16-8 |
営業時間 | 営業時間 月曜〜金曜 17:00〜23:00 土日曜、祝日 13:00〜22:00 お食事ラストオーダーは1時間前、ドリンクラストオーダーは30分前です。 日曜営業 定休日 水曜定休日 |
開業年 | 2013年 |
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