それは、宮崎の飲み屋街にすっかり魅了された夜でした。
ここは宮崎市の中心街、通称「ニシタチ」。宮崎市の3大観光資源に位置づけられる「ニシタチ」は、官民あげて昭和の雰囲気を大切にして魅力づくりに取り組む飲み屋街です。
南北に長く、山あり海あり、農産物あり、そして本格焼酎の出荷量全国1位を誇る宮崎県。その中心街には旅行者の心をくすぐる名店・絶品料理が溢れていました。
宮崎を代表する酒の肴のひとつに鶏の炭火焼きがあります。今日は名物のやき鳥を求めて、専門店「丸万」の支店の暖簾をくぐります。
宮崎市と北九州が高速道路で直結したのは2016年と最近のこと。また鉄道でも、博多から鹿児島まで、西九州は2011年に開業した九州新幹線によって1時間30分で結ばれたのに対し、東九州は大正時代に敷設されたJR日豊本線の特急列車で向かうと約5時間かかります。
「だからこそ」と言いましょうか。宮崎はまだまだ知られざるポテンシャルを秘めているように思うのです。人よし、酒よし、肴よし。ノンベエ心をばっちり掴まれてしまいました。
宮崎観光の玄関口、JR宮崎駅から徒歩15分ほど。ここニシタチは、名前の由来となった「西橘通り」を中心に広がる圏内一の飲み屋街。1,000軒以上の飲み屋が軒を並べています。ニシタチに接する位置に、宮崎県庁や宮崎市役所、企業の支社などがあり、出張で訪れた人は、きっとニシタチを飲み歩くことになるはずです。
さて、夜になりましたから「丸万支店」を目指します。
丸万は1954年(昭和29年)の創業。本店と支店があり、本店は幅広い層が利用しやすい明るい雰囲気。対する支店は大衆酒場の店構えそのもので、地元のノンベエたちは支店派という人が多いそうです。
入ってすぐの焼き場にご主人が立ち、その前に数席のカウンター。奥は小上がりというコンパクトな店内。一人飲みならば、ご主人の前が特等席です。トーク上手なご主人のやき鳥話は旅情に浸れます。
お酒はビール、本格焼酎、ハイボールなど。焼酎は木挽ブルーや白霧島、飫肥杉など、地元の大定番が揃います。
まずは悩むことなく、樽生ビール(キリンラガー)をもらって乾杯!
さて、ここ丸万支店には品書きというものがありません。というのも、料理は「もも焼き」か「ももたたき」の2種類しかないのです。
突き出しはお決まりで、鶏スープときゅうり。
宮崎の焼鳥は、全国的な串に刺さったものとは違い、網の上で豪快な炎に包まれて焼き上げるもの。ご主人の話によると、丸万支店のこだわりは、仕込みの塩加減にあるそうです。店内の調味料棚には数え切れないほどの塩が並び、ご主人は今ではすっかり「塩マニア」になってしまったとか。
鳥肉一つずつの違いにあわせて下味のバランスを変え、狙った味を常につくれるよう研究しているそう。
そんな話を聞きながら芳ばしい香りに包まれれば、ビールはあっという間に乾いてしまうに決まっています。二杯目は雲海酒造が力を入れている「木挽BLUE」。南九州の黄金千貫と日向灘黒潮酵母をつかった土地の味です。すっきりとしたした味で口をリセットさせて、いよいよ――
もも焼きが出来上がりました。予め食べやすいように切って提供してもらうことも可能です。銀皿の上でご主人がささっと包丁を入れてくれました。
一般的な宮崎鳥炭火焼きのイメージと違い骨付きです。滴った脂が炭にあたり、それが煙と一緒に燻すように身を包み、一層香ばしい風味になっています。
「もしレアで気になるようでしたらしっかり焼くことも出来ます」とご主人。いえいえ、これがよいのです。こりこり・くきゅくきゅとした歯ごたえ、噛むほどに滲み出る濃厚な鶏の脂の旨味は絶品。フォークで削り取るように食べるのが丸万流。
噛み締めながら、余韻に焼酎をあわせれば、宮崎が大好きになるはず。
ご主人の説明にもある通り、確かに下味が非常に特徴的。個性のある塩というほど派手ではないものの、日常で使う塩とは大違い。
ポン酢とネギを載せたももたたきと焼酎お湯割りの組み合わせも絶品だと、隣の常連さん。同じ部位でも味がぜんぜん違っておもしろいですよ、と話します。
思い出すだけで、よだれがでそう。宮崎ニシタチは素敵な飲み屋街です。まだまだはしご酒は続きますが、この記事はここまでで。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
丸万焼鳥 支店
0985-25-5451
宮崎県宮崎市橘通西3-8-7
17:00~23:30(月定休)
予算2,500円