角打ちという言葉は、炭鉱と鉄鋼の街・北九州で生まれたもの。いまや全国区で使われているのは皆さんご存知の通り。ただ、九州全土で角打ちが盛んかと言うと、実はそうでもありません。
北九州市や福岡市に集中しているほかは、本州の他県とかわらない程度の数です。
また熊本では「角打ち」というと、一般的な立ち飲み屋を含む認識の人も多いので、一軒目で仲良くなったお隣の方に「このへんに角打ちはありますか?」と聞くと、酒屋ではなく立ち飲みをご紹介いただいたこともあります。
さてさて、とはいってもせっかく球磨、阿蘇、天草の焼酎・日本酒の一大産地に来たのだから、一軒くらいは角打ちで地のお酒をプロの話を聞きつつ飲みたいものです。そんなときは「南酒店 熊本県産酒試飲所」へ。
熊本城・市役所に近く、熊本最大の繁華街「下通」にある歴史ある酒屋さんです。この界隈は栄通り、銀座通りなんていう繁華街の定番の通りの名のほか、「酒場通り」や「クラブ通り」なんていう小路もありまして、それはそれは濃厚な飲みの街です。
南酒店はいまでこそ、小さな角打ちスペースとちょっとした小売の冷蔵庫だけの10人も入れば満員のお店ですが、実はこのビル全体が南酒店。同じビル内のとなりには人気立ち飲みの「ねぎぼうず」があり、こちらにお酒を卸しているのはもちろん南酒店というわけ。
ちょっぴり怪しげな小箱角打ちだからと心配せず、きっちりとした角打ちなのでお酒好きの女性お一人様も勇気を持って覗いてみてほしいです。
小さなカウンターで、店主の南 良輔さんが基本一人で切り盛りされています。南さんはFM791 熊本シティエフエムで「ダウンタウンストリートショップ」という商店街バラエティ情報番組のパーソナリティもされていて、積極的に街を盛り上げている存在です。
そんなこともあって、お客さんも地元でご商売される方が中心で、お酒を共通の趣味として素敵なコミュニティが生まれているのが印象的。そしてさすがラジオのパーソナリティをされているだけあって、トークが上手でみんなで盛り上がります。
熊本県産酒試飲所と書かれている通り、県下のお酒が珍しいものまで勢揃い。熊本で酒業に携わる方なら、「おお」と思う銘柄がごろごろとあるはずです。
林酒造場の極楽。まずは球磨焼酎のしっかりとした味を試してみて!と勧められたもの。
常圧で長期熟成、ググっとくる深い旨味、それでいて米焼酎ならではのクセのないフルーティーな余韻が特長。
南さんも缶チューハイを片手に、みんなで焼酎談義。地元の焼酎を麦茶のように日常的に飲酒(適正な量で)されている皆さんでも、夏場は結構缶チューハイを飲むのだと聞いて、ちょっとびっくり。
代金は先払いでも後払いでもどちらでもOK。とりあえず小銭をじゃらっとカウンターにおいて、魚肉ソーセージやスルメイカを片手に、次の焼酎を。
取材に伺ったと話すと、あれもこれもと、熊本の美味しいお酒が次々とおすすめされ、明日も飲みにおいでと大盛り上がり。とてもじゃないけど、一晩で熊本の酒の魅力は味わい尽くせません。
那須酒造場の球磨の泉。多良木町の小さな焼酎蔵ですが、過去に全国酒類コンテストで本格焼酎総合第一位に輝いた銘柄。
本来、常圧(旧来からの製法)はお湯割りで、減圧(すっきりした味で新しい製法)はロックに向いているというのが本格焼酎の原則なのですが、こうして地場で焼酎を日々飲み続けている皆さんの自由な飲み方をみていると、お酒はやっぱり好きに飲むのが一番だなーと改めて思えます。
玄米、黄麹でつくる明治時代の球磨焼酎製法でそのまま再現した明治波濤歌。度数35と高く、舐めるように飲むとこれがまた美味。土地の味は、やっぱりその街でそこで暮らす人たちと交流してより美味しくなります。通販でも手に入るけれど、こういう出会いがあるから酒旅はやめられません。
お酒好きが集まり、夜な夜な盛り上がるみなみ酒店熊本県産酒試飲所。酒業に携わる人の常連さんも多く、熊本のお酒について様々なお話を伺うことができました。美味しいお酒は、地元の人との出会いでもっとおいしくなる。熊本で飲む際にゼロ軒目としてや、〆のバー感覚で一献傾けてみてはいかがでしょう。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
南酒店 熊本県産酒試飲所
096-354-2355
熊本県熊本市中央区下通1丁目4-3 熊本ビル1F
17:00~22:00(金土は24:00まで・日祝定休)
予算1,000円