銀座の中心、4丁目交差点からほど近い銀座三原通り沿いに、一軒の焼鳥屋があります。三越からはティファニーの先にある三原通り口から徒歩1分もかからないという、まさに一等地。こんなところに焼鳥屋と、初めての人は驚くに違いありません。これだから、東京の酒場は楽しい。
1953年(昭和28年)に水落武敏さんが屋台から始めた焼鳥屋で、4年後の1957年(昭和32年)から現在の地に店を構え、銀座で働く人々の第三の居場所として愛され続けています。1957年といえば、有楽町にそごうが進出した年。この界隈はまさに成長の真っ只中です。
今年で60年目を迎えた店の雰囲気は、過去の銀座を現代に伝えるタイムマシンような存在にすら思えます。
白木のカウンターが焼台をぐるりと囲い、職人さんが黙々と炭と串を操り、焼鳥一本一本に心を注ぎます。熟練した焼鳥の職人さんは、串の先までが自分の指のような感覚だそう。惚れ惚れするかっこよさ。たっぷりと串打ちされた鶏が出番を待っているのも期待が高まり素敵です。
鶏は名古屋コーチン、焼台は一般的な焼鳥屋で使用するものより細い備長炭がセットされています。それでいて価格は大衆的で、ちょいと飲んで食べていこうというときに、ふらりと立ち寄れる日常の酒場なのです。
ビールは生樽はなく、中びん(600円)でサッポロとキリンが用意されています。銀座の老舗のカウンターに星が似合う。乾杯!
ドリンクは瓶ビールのほか、白鷹(600円)とワイン赤・白、焼酎の麦・芋とシンプルな顔ぶれ。老舗焼鳥にはビールと日本酒があれば筆者は十分。とくに、「白鷹」というのがいい。
2200円のコース(10本)と1400円(5本)の半コースの2種類があり、お腹のあんばいを考えてどちらかを選びます。注文と同時に並ぶサラダ、お漬物、大根おろしの三点セットが”おきまり”。
串が焼けるまでの鶏スープが、ビールと相性抜群。
焼鳥は多いときは30本近くを同時に焼くのだそう。
味噌らっきょとからしが添えられた皿に、順に串が届けられます。細かくなんこつがはいったつくねは、うずらをはさみ塩でいただきます。
串の出て来る順番は決まっていて、塩からはじまり段々と濃厚な味へとグラデーションで変わっていきます。
生醤油、からし醤油、胡麻だれ、甘たれと続きます。絶妙な焼き加減でもちっとした食感が残るささみは、わさびで。
タレのレバーにつづいて、手羽先。鰻につかうような金串で、大きいものが2本。皮から垂れた脂が炭火で煙と混ざり、燻されたように焼き上げられていて、ぱりっとした表面と滴る鶏の肉汁が最高に美味。
もも肉はねぎを挟んで。皮付きで手羽に続いてくるので味が似ているかと思いきや、これが全然違います。部位による味の違いを再発見。
ぎんなんに続き、鴨味噌が登場。味噌とシソのバランスが秀逸で、濃厚な旨味とシソの爽やかな風味がたまらない。定番の鶏から鴨へ移り、ここで「やっぱり武ちゃんは美味しい!」と気分が高まります。
アスパラを鴨で巻いた「アスパラ巻き」(600円)はコースにはありませんが、人気の一本。コースだけでなく、アスパラ巻きを別で頼めるようになれば、気分はベテランの銀座っ子。
皮はやはり長めの串に刺さっているのですが、これがみっちりと打たれており、焼いて縮んだはずなのに、それでも焼き上げ後も隙間なくぎっちりと刺さっています。厚めの皮ということもあり、口にいれた瞬間に皮が広がり同時にふわーっと旨味が口いっぱいに膨らみます。
ほかにも、追加の串などありますので、ぜひご自分の目と口で楽しんでください。きっと、瓶ビールや日本酒は次々空いていくはず。
口開けに合わせて次々やってくる武ちゃんファンであっという間にいっぱいになったカウンター。熟練スタッフの阿吽の呼吸も見ていて楽しい。銀座の真ん中にある大衆酒場。極めて銀座らしいかっこよさがありながらも、昭和の風情をかわらず今に伝える素敵な空間です。
回転の良いお店ですが、予約ができません。暖簾をくぐって「どうぞ」と言われたときの喜びもまたおつまみで。
下町や山手の酒場もとってもよいのですが、中央はまた格別です。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材協力/サッポロビール株式会社)
武ちゃん
03-3561-6889
東京都中央区銀座4-8-13 銀座蟹睦会館ビル 1F
17:00~21:30(日祝定休)
予算3,600円