港区・新橋で昭和7年から続く関東おでんの名門『新橋お多幸』をご存知でしょうか。銀座発祥のお多幸の暖簾分け。東京のおでんを代表する店のひとつです。漆黒の出汁で煮込まれたおでんは、見た目の濃厚さとは裏腹に驚くほど上品な味わい。居酒屋好きなら一度は訪ねほしい伝統の味を、名物おでん種を中心にご紹介します。
地下の隠れ家で、90年の歴史に浸る
あらゆるジャンルの食が会社帰りの人々を誘惑する新橋赤レンガ通り。賑やかな通りからビルの地下へと続く階段を降りると、そこには歓楽街の喧騒を忘れさせてくれる落ち着いた空間が広がっています。

暖簾をくぐれば、純和風の造りに心が和む。昭和7年に創業し、90年以上の歴史を刻んできました。2008年に現店舗に移転。現在は3代目が暖簾を守っています。実はこの3代目、かつてはサラリーマンとして働いていた経歴の持ち主。父である先代の跡を継ぐために脱サラし、修業を経てこの場所に戻ってきたという物語があります。

だからでしょうか、ここには働く人たちを優しく包み込むようなムードで、初めてでも緊張がやわらぎます。お一人様なら、迷わずカウンター席へ。磨き込まれた白木の一枚板は見事で、目の前には湯気を上げるおでん鍋。これぞ特等席です。鍋の中では、昭和から継ぎ足されてきた秘伝の出汁が、具材たちをゆっくりと育てています。
職人技が光る飴色のおでん種

席に着いたら、まずはビールで喉を潤しましょう。瓶ビールはカウンターに似合う「サッポロラガー(赤星)」。それでは乾杯!
さて、いよいよおでんを注文します。

初めて見る方は、その出汁の黒さに驚くはず。ですが、一口味わえば印象は一変します。醤油と砂糖、みりんで調味された出汁は、カツオと昆布の旨味が凝縮されており、角のないまろやかな甘みが口いっぱいに広がる。見た目は濃いけれど、味は上品。これが伝統の東京おでんです。戦中の休業明け以降、80年近く継ぎ足し続けてきたそうです。

まずは定番の「豆腐」と「ちくわぶ」、「すじ(魚)」から。
日本橋の老舗「双葉商店」の豆腐は、黒い出汁を吸って飴色に染まっています。箸を入れると中はクリーム色、大豆の風味がしっかりと感じられます。東京のおでんには欠かせないちくわぶも、芯まで味が染みてモチモチとした食感が心地良い。
「すじ」は、一般的に牛すじを想像する方も多いですが、こちらは魚のすり身に軟骨を混ぜた伝統的な「魚すじ」。東京ならではの粋な味わいです。※現在は牛すじも取り扱い。

ここでお酒を「菊正宗」の上燗(樽酒)に切り替えて、第二陣を。
選んだのは「こんにゃく(上野の麩・こんにゃく専門の老舗「大原本店」より)」、「がんも」、そして「じゃがいも」。がんもは日本橋「双葉商店」のものを使っており、出汁をたっぷり吸い込んでいます。そして、新橋お多幸の名物のひとつが「じゃがいも」です。おでんにじゃがいもは珍しいかもしれませんが、中まで甘く染まっていてホクホクとした食感は特別感があります。

最後は「はんぺん」と「きゃべつまき(ロールキャベツョ」です。老舗だからと型通りではないのがいいところ。ロールキャベツのような洋風の種も、この黒い出汁によく馴染みます。

そして、東京でおでんを食べるならば、ぜひ楽しんでほしいのがはんぺん。とくにお多幸のような老舗では、日本橋「神茂(かんも)」の三角錐型をした手取りはんぺんが選ばれています。注文が入ってからさっと出汁にくぐらせて提供されるため、淡雪のような口溶けと、青鮫肉本来の旨味が感じられる。おでんの奥深さに改めて気づかされます。
おでん好きなら一度は訪ねてほしい一軒です
店名の『お多幸』とは、銀座にあったおでんの名店「お多幸本店」の創業者・太田コウ氏の名前からきています。戦前から続く老舗でありながら、おでんは1つ250円からと良心的な価格設定。店主さんらの手仕事と、歴史ある仕入先、そして長い年月が磨き上げたカウンター。ここには「本物」があります。
| 店名 | 新橋お多幸 |
| 住所 | 東京都港区新橋3丁目7−9 川辺ビル |
| 営業時間 | 16時00分~22時00分 日祝定休 |
| 創業 | 1932年 |
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