今回は浅草・観音裏の名店『釜めし むつみ』へ。看板料理は注文後に生米から炊き上げる「釜めし」です。炊きあがるまでの時間、季節の料理と酒でゆったりと過ごす「大人の余裕」を楽しむ店として、世代を超えて親しまれてきました。観光地の喧騒を離れ、地元のご近所さんが日常的に憩う場所。今回は、釜めしが炊きあがるまでの豊かな時間の楽しみ方を取材しました。
“タイパ”の時代でも変わらぬ人気

雷門周辺や仲見世通りの賑わいから離れ、言問通りを越えた先にある「観音裏」。浅草寺(観音様)の裏手に広がるこのエリアは、観光地としての喧騒とは無縁の、落ち着いた下町の風情が色濃く残る場所です。古くから花柳界を支えてきた料亭や、食通が通う名店がひっそりと暖簾を掲げる、知る人ぞ知るグルメエリアでもあります。
今回訪ねたのは、この界隈を代表する老舗のひとつ『釜めし むつみ』。創業は昭和43年。
釜飯は、注文を受けてから生米を炊き上げるため、提供までにおよそ30分から40分ほどの時間がかかります。タイパ(タイムパフォーマンス)重視の人なら「待てない」となる場面でしょうが、ここではその「待ち時間」こそが醍醐味。
出来上がるまでの時間をつなぐ料理が居酒屋顔負けで充実しているため、飲み屋・料理屋として利用するご隠居さんが多いです。私も先輩方にならって、ここではしっかり飲んできました。
老舗の入れ込み座敷で、ふぐの鰭酒と季節の味

店に入ってすぐに玄関があり、店では靴を脱いで過ごします。畳敷きの入れ込みは、まるで田舎の親戚の家に招かれたような寛ぎの空間。
まずはキリンラガーの瓶ビールで乾杯。よく冷えたビールが喉を駆け抜け、散策後の身体に染み渡ります。

釜飯が美味しい冬の季節といえば、まずはあん肝を。濃厚な旨味が口の中でとろけ、ビールの苦味と好相性。

続いて、浅草といえばやはりこれ、「もつ煮込み」(990円)。
「釜飯の名店で煮込み?」と疑問を持つかもしれませんが、東京の煮込み文化は浅草から広がったという説もあり、この界隈らしい一品です。めずらしい西京味噌仕立てです。味がしっかりと染みたモツは柔らかく、お酒が進みます。

さらに「馬刺しユッケ」(2,200円)もお願いしました。

美味しい料理に誘われて、お酒を切り替えます。
メニューに見つけたのは「ふぐの鰭酒(ひれざけ)」。こういう老舗でいただく鰭酒は、その場の情緒まで含めて美味しさの一部です。
蓋を開けると、炙ったヒレの香ばしい香りがふわりと立ち上ります。熱々の日本酒に溶け出したヒレの旨味。寒い季節には、この熱さが何よりのご馳走。ついついお酒が進んでしまい、注ぎ酒(つぎざけ)をお願いしました。

焼き鳥をつまみながら、店内の活気や、静かな夜の気配を感じる。スマートフォンの通知を見るのも忘れて、ただ「食」と「酒」に向き合う時間。たまにはこういう時間も必要です。
蓋を開けた瞬間の幸福。五目海鮮釜めし

ほろ酔い気分が心地よくなってきた頃、いよいよ釜飯ができあがりました。
今回選んだのは、一番人気の「五目海鮮釜めし」。
期待に胸を膨らませて木蓋を取ると、湯気とともに海鮮と出汁の芳醇な香りが一気に広がります。

海老、アサリ、鶏肉などがゴロゴロと入り、見た目も華やか。しゃもじを入れると、底には見事な「おこげ」ができていました。これが濃い味で、お酒がまたまた進んでしまいます。

それぞれの具材から出た旨味をたっぷりと吸い込んだご飯。

鰭酒の残りをちびりとやりながら、熱々の釜飯を頬張る。

味付けは素材の良さを引き立てる優しい出汁の味がベースですが、おこげの部分は味が凝縮されており、これだけでまたお酒が飲めてしまう。

「観音裏はやっぱり美味しい」心からそう思える、大満足の締めくくりでした。時間に余裕を持って訪れ、ゆったりとした「むつみ時間」を味わってみてはいかがでしょう。
店舗詳細


| 店名 | 釜めし むつみ |
| 住所 | 東京都台東区浅草3丁目32−4 |
| 営業時間 | 11時30分~14時30分 17時15分~22時00分 水・隔週火曜日定休 |
| 創業 | 1968年 |
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