三軒茶屋の国道246号線沿いに、いつも路線バスから眺めては気になっていた一軒があります。寿司と鰻の文字を掲げる『三河屋』。創業1964年、最初の東京オリンピックが開かれた年から続く老舗です。長く続く町寿司の暖簾を、今夜はくぐってみましょう。
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バス停の目の前、いつも気になっていた昭和の寿司店へ

渋谷と多摩地区を結ぶ大動脈、国道246号線。ひっきりなしに車が行き交うこの通りで、昭和の時代から変わらぬであろう空気をまとって佇むのが『三河屋』です。東急バスのバス停がちょうど店の目の前ということもあり、バスを利用する人ならば、きっと一度は気になったことがあるのではないでしょうか。

年季の入った店構えは一見すると少し入りにくさを感じるかもしれませんが、心配はご無用。ガラス戸を引けば、「いらっしゃい」と強面だけれど温かい大将の声に迎えられます。

年季を感じる店舗ではあるものの、店内は驚くほどに隅々まで手入れが行き届き、清潔感に満ちています。カウンターには、Z世代と思われる若いカップルと、秋田の漁師町出身だという80代のお姉様方。テーブル席では地元の会社員グループや家族連れが食事を楽しんでおり、まさに町で愛されてきたお店ならではの光景が広がっています。

サッポロラガーで始める、心温まる寿司屋の夜

まずは瓶ビールをお願いすると、黙っていても「赤星」が出てくるのが嬉しいところ。お通しとして出してくれたのは、まぐろの甘煮です。血合いを使っているそうですが、まったく臭みがなく、むしろ脂の旨味が凝縮されていて、これだけでビールがぐいぐいと進みます。

さて、今夜は握りをおまかせでいただくことに。「上」(2,700円)をお願いしました。
これが2,700円?最初からクライマックスの連続

まず最初にどんと置かれたのは、本まぐろの赤身と大トロ。

いきなりの主役に、思わず心が躍ります。酢飯はほんのり甘めで、どこか懐かしい味わい。

そして驚くべきは、すべての寿司種が大変分厚いこと。人気の高級店にも引けを取らない、堂々とした大きさです。スーパーで買う持ち帰り寿司とは、もはや別の食べ物と言っていいでしょう。

脂がしっかり乗ったブリ、ぷりっとした赤海老、そして肉厚で甘みが強いホタテが続きます。

隣に座られた秋田出身のお姉様も「ここのネタはいいものだねぇ」と、しみじみと頷いています。北の海の幸を知る方が言うのですから、間違いありません。

セットには鉄火巻が3つと、魚の旨味が溶け出したあら汁までついてきます。

この内容で2,700円というのは、まさに破格と言えるでしょう。

燗酒と、とろける穴子で〆る

すっかり気分が良くなり、燗酒を追加。そして、どうしても気になった「穴子」を握ってもらいました。

もちろん店でじっくりと仕込んだもので、口に含めばホクホク、とろとろととろけていきます。甘すぎず、深みのあるツメ(煮詰めたタレ)との相性も抜群。60年という歴史の重みを感じさせる、納得の美味しさです。
ぜひ一度、この暖簾をくぐってほしい

三軒茶屋という飲食店がひしめく街で、半世紀以上にわたって地元の人々に愛され続ける『三河屋』。その理由は、手頃な価格はもちろんのこと、実直で丁寧な仕事と、それによって生み出される確かな味にありました。昼には限定10食のランチを求めて行列ができるというのも頷けます。
バスの中から眺めていたあの店は、期待をはるかに超える素晴らしい大衆寿司でした。ぜひ、途中下車してでも訪ねてみてはいかがでしょう。三軒茶屋生まれの人たちが足繁く通う店にハズレなし!
店舗詳細


店名 | 三河屋 |
住所 | 東京都世田谷区三軒茶屋1丁目41−7 |
営業時間 | 12時00分~14時00分 17時00分~22時00分 水曜日定休 |
創業 | 1964年 |