大森「鳥まさ」 住宅街に突如現るノンベエ天国。ここは別世界！

夕暮れの大森を、飲み屋を目指してもう10分以上も歩いています。ですが、まだお店は見えてきません。街の景色はぽつんぽつんと点在する町工場やコンビニがあるくらいで、あとは絵に描いたような大田区の住宅街。ほんとうにこっちで合っているのでしょうか…。前回も酔っていたから道があやふやです。

心配になってきたところで、やっと見えてきました。目指すお店は「鳥まさ」。まだ口開け間もないというのに、すでに店内から賑やかなノンベエさんたちの笑い声が聞こえてきます。

JR大森駅、京急平和島駅、大森町駅、いずれの駅からも徒歩15分はかかる立地にある「鳥まさ」。その距離は、訪ねる前の心細さがビールを美味しくし、店をあとにしてからは夜風が頬をくすぐり酔いを楽しい時間をつくります。

ご主人が20代の頃にお店を立ち上げ、半世紀近く。大森西に根付いた地域密着の酒場です。そういったことから、お客さんも9割は常連さん。町工場や配送会社、近隣の地域を支える人々が集います。また、意外にもご夫婦や奥さんお一人だけの姿もあって、街に住む人の社交場となっていることも伝わってきます。

お店の向かいは大田区役所大森地域庁舎。そしてその横を走るJR東海道本線には踏切があり、店に聞こえる街の音は懐旧の情を掻き立てます。

笑顔満点、接客抜群。人懐こいご主人の人柄がなによりの魅力です。もちろん料理もおすすめのポイント。ご主人が開場日に日々仕入れる魚介類は、品数豊富で値段はとっても手頃。

のどぐろ刺し、キンメ刺し、おこぜ刺し、石かれい刺し、ウマヅラハギ刺し、まぐろ刺し、くじら刺し、蟹甲羅詰め（各500円）、赤貝、ホタテ、いしがき貝、あおやぎ、とり貝（各400円）、あまえび刺し、あじ刺し、ほや刺し（各350円）…。10数席のお店なのに、すさまじい刺身の品揃えです。

朝の仕入れ、昼の仕込み、夜中までの営業。ご主人お一人で切り盛りされているお店は、努力の結晶です。

かつて、大森にはアサヒビールの工場がありました。そのため、大田区、とくに大森はアサヒビールを置く老舗が多く、鳥まさもそうした一軒です。土地の歴史を感じつつ、スーパードライで乾杯！

ボリューム満点の焼きそばがビールについてきます。

樽生ビールもスーパードライ（500円）、瓶ビール大ビン（600円）、日本酒（350円）など。ここではぜひサワー（500円）をおすすめしたいです。え、ちょっと高い？それはこのあとのお楽しみ。

いぶされた品書きにまざってきれいな短冊で本格焼酎も並びます。

店名が「鳥まさ」ですが看板料理はお刺身。ですが、よくみてください、左に「かしら」「レバー」「しろ」などあるでしょ、とお隣の常連さん。続けて「大将の気分次第で焼いてくれるから、あまり食べたことないなぁ」と笑うお隣さんとご主人。この掛け合いがずっと続いていきます。

オコゼ刺し（500円）を注文したら、サービスだよとあおやぎ、石かれいを盛り合わせてくれました。一人だと山盛りにされるより、盛り合わせにしたほうが嬉しいですからね。とにかくサービス熱心、驚かせることを楽しんでいるご主人です。

おまちかね、常連さんたちがみんなして飲んでいる「サワー」（500円）がこちら。グラスがふたつあります。

左にはすりきれまでキンミヤ焼酎が注がれ、もうひとつには氷屋さんの氷がたっぷり。さらに1本まるまる出される割材サワー。

これを各々好きな分量であわせていただきます。濃いめ5割を甲類焼酎で飲めば、背筋がピン伸びるアルコール感。3杯程度に分けて飲んだら、もう大満足です。ベテランの常連さんはだいたいこれを3セット頼むだとか。つ、つよい…！

一人では食べ切れないボリュームのハムエッグがちょっとした名物になっていますが、一人だとちょっと大変。今回は「イベリコ豚焼豚」（400円）にしておきます。

それでもこのボリューム。味の染み具合とタレの甘さが絶妙にマッチしていて、濃いめのサワーがすいすい進みます。

しいたけ煮・きんぴらごぼうサービス（300円）。主役を支えるおつまみも手抜きなし。

サワーはほんのり甘くレモンの果実感があります。さわやかでよいのですが、途中で味を変えたくなってくるかも。割材は烏龍茶や麦茶も自由に変更可能。これまたペットボトルで好きなだけ頂けます。

常連率が極めて高く独特のコミュニティが形成されていますが、皆さん超絶ウエルカム。きっと初めてでもあっという間に馴染めるはず。気遣い上手のご主人と、大田区のお父さん、お母さんたちの優しさに浸る、ここはのんべえ天国です。

ごちそうさま。

（取材・文・撮影／塩見 なゆ）

鳥まさ
03-3761-1189
東京都大田区大森西1-11-1
17:00〜23:00（日定休）
予算2,300円