1956年(昭和31年)創業、釧路の老舗「万年青」。屋台から始まり、現在は2代目の女将さんがのれんを守る名店です。
かつて全国的に流行した炉端焼き。魚介類を目の前で焼く方式の発祥地と言われているのが道東の都市・釧路です。
ここは、漁業や炭鉱、製紙に食品と様々な産業が集まり、かつて小樽をこえて人口ランキングで道内4位の街でした。とくに末広歓楽街と呼ばる飲み屋・スナックなどが集まる一画は、道東最大の歓楽街と名高く、この風土の中で炉端焼きが誕生します。
街を歩けば、歩行者よりも店が多く、右を見ても左を見ても、びっしりと飲食店が立ち並んでいます。
夜になると提灯が灯り、暖簾の向こう側から大勢の笑い声が聞こえてきます。通行く人は少なくても店は熱気でいっぱいというのは、地方都市”あるある”です。タクシーでさっと乗り付けるグループが多いのでしょう。
万年青も、そんな古き良き北国の飲み屋街で静かに佇む一軒です。派手さは皆無でいぶし銀の店構えですが、これは冬季の厳しい自然環境を考えると納得です。現在の店舗は1981年(昭和56年)からだそう。
暖簾をくぐってみると、そこはぱっと開けた、素敵なコの字の空間が広がります。下ごしらえの出汁が香り、牡蠣やつぶ貝などが「美味しいよ」と訴えかけてきます。
鮮魚、開き一夜干し、旬の道東野菜がずらり。どれを食べようか目移りして、しばらく落ち着きません(笑)
年間を通じておでんもあり、昆布の産地だけに昆布出汁のいい味を思いっきり楽しめます。
地元のお父さんや、札幌から根室本線の特急おおぞらで釧路観光に訪れているという年配のご夫婦とカウンターをともにしてスタートです。暑い日も寒い日もビールが美味しい!ということで、一杯目は恵庭うまれのサッポロ黒ラベル。乾杯!
胸おどる品書き。表面はおでんや、郷土料理でニシンやサケなど海産物を使った三平汁などが載っています。
刺身はつぶから始まり、鯨、ホタテ、ホヤにイカなど土地の幸がずらり。看板料理の炉端は、めんめ(キンキ)、柳鰈、にしんに八角、ホタテ殻焼きや牡蠣など、どれも食べたくなる顔ぶれです。阿寒豚りスペアリブも炉端で焼いちゃいます。
品書きには値段が書かれてなく、飲み物については品書き自体がありません。ですので、少々勇気がいる印象をうけるかと思いますが、カウンターで女将さんと対話しながら飲むのが魅力なので、積極的に何があっておいくらぐらいか聞いてみましょう。
お通しはとうもろこしとベーコンのバター炒め。年季のはいったねじれた鉄製フライパンが卵焼きなどに使われていますが、なんと50年選手なのだそう。
それでは、えーっとおでんから。つぶとトマトをお願いしましょう。
つぶは固くならないいい塩梅で、とまとも出汁を吸ってホロホロにとろけています。昆布出汁が絶妙な利き具合。出汁でビールが進みます。
これはたまらない、とビールから日本酒へ。福司を燗につけてもらって、きゅっと一口。はぁー。いい気分。このほか根室の北の勝や増毛の国稀など道内産を中心に様々地酒が揃っています。
おつまみは、鯨ベーコン。釧路の街はくじらを食べる文化があり、「万年青」が創業したころは全国一の捕鯨数だったそうです。その後、鯨漁は廃止されるも、平成にはいると釧路沖で調査捕鯨が実施されるようになり、毎年「くじら祭り」が開催されています。
そんな歴史を食とお酒で感じつつ、酒場の時間は流れます。
さぁ、そろそろ焼いていただきましょう。さんまの季節ではないし、何にしようかと女将さんに相談したところ、「八角はあまり食べたことないでしょう?小ぶりだけど美味しそうなのがあるよ」と提案いただき、さっそく焼いてもらうことに。
カウンター中央に鎮座する大きな焼台に、じんわり灯る炭火が敷き詰められています。炉端は火加減や焼き具合が難しいと聞いたことがあり、じっくり時間をかけて丁寧に焼く仕事は見ていてうっとりします。
北海道以外ではあまり見かけない八角(トクビレ)は、開きだとわからないのですが、市場で見かけるとまさに断面が八角形のようになっています。
そんな八角の開きに味噌、みりん、酒をあわせたタレとネギをたっぷり載せたものを「軍艦焼き」と呼ぶご当地の逸品です。
お皿からはみ出すほどの大きさ。白身魚ながら、濃厚な旨味があり、甘味噌に負けないコクがあります。これを少しずつつまんで、片手におちょこを持てば、もう完璧です。
あまり出荷数量の多くない地元の珍しいお酒もあって、あれこれと腰を据えて楽しみたいものです。
通年で食べられる道東の牡蠣。名産地の厚岸にも近く、年中美味しい牡蠣が楽しめる釧路ですから、炉端焼きで食べないはずがありません。
ハフハフとしながら焼き牡蠣を頬張り、旨味の余韻に北海道産のウイスキーをあわせてみれば、美味しいに決まっていますね。
素朴だけどとても優しい女将さんと明るいスタッフの皆さんのおかげで楽しい時間を過ごせました。三代目はなとん東京の神楽坂で「万年青神楽坂店」を開いているそうで、そちらもいつか訪ねてみようと思います。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
炉ばた 万年青
0154-24-4616
北海道釧路市栄町4-2
17:00~翌5:00(月定休)
予算5,000円