金沢「黒百合」 大人に変わったら、おでんの街で飲みたくなる

金沢「黒百合」 大人に変わったら、おでんの街で飲みたくなる

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東京~金沢、2時間28分。北陸新幹線の開業でぐっと近づいた日本海最大の街・金沢。東京や名古屋、大阪などの大都市圏にはない味わい深い街並みに、日本海の幸。いままで交通の便がさほど良くなかったからこそ残る、大人がくつろぐしっぽりとした風情があります。さぁ、休日はふらっと新幹線に乗って旅に出てみませんか。きっと、今まで経験したことのない酒場との暖かな出会いがあります。

金沢駅についたら、まずは必ずここに立ち寄りましょう。駅ナカにある「黒百合」は、1953年創業。昔からずっと金沢駅構内で営業する名物おでん飲み屋です。新幹線の開業後も変わらず駅構内で老舗の風格を漂わせどっしり営業中。街にとことん根付いているお店で、なんと朝10時から営業しています。金沢から上京する地元の人が最後に食べるお店、金沢へ帰ってきた人が最初に食べるお店。60年以上、ずっと街の玄関の郷土の味として親しまれています。

 

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店内は大きなコの字カウンターで奥はテーブル席。駅ナカでも大きめの空間で、厨房とおでん鍋を眺め心地良いひととき。席と席の間はとても近くぎゅうぎゅうになるのですが、袖触れ合うも他生の縁。「ちょっとお醤油をよろしいですか?」から始まる会話が、旅先のいい思い出になります。

昭和28年10月18日の開業からビールはずっとキリン。生ビールの「一番搾り」が誕生するはるか前、まだキリンといえばラガーだった時代から変わらぬこの顔がカウンターに立ち並んでいたかと思うと、人々の人生に寄り添うビールってつくづく素敵だなと思います。そして、いま私もここに座って、それを飲む。この一瞬、私もこのカウンターの風景になれたことを嬉しく思いながら、さぁ「伝統」に乾杯。

現在厨房で主に活躍するのは三代目。創業当時の味を変えることなく、おでんも伝統が守られ続けています。若き4代目の成長も楽しみですね。

 

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メインのおでんのほか、金沢の郷土料理や日替わりのおすすめもあり、何を食べようか迷います。

 

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おでんは100円から。北陸の郷土の味といえば車麩です、ばい貝があるのは、これぞ金沢おでん。

 

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白峰の堅豆腐や川魚も名物。というのも初代は歴史ある加賀の川魚料理の店の息子さんだそうで、その流れを受け継ぎ、いまもこうしてメニューに歴史を残しています。

魚は毎日板長が市場で仕入れているそうです。60年続く店の板長が毎朝仕入れに来る、魚河岸との関係もしっかりされているに違いありません。

 

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まずは車麩をもらって、きゅっと一杯。テキパキと動きながらも笑顔を忘れない名物スタッフのお姉さんと楽しい掛け合いをしながら、ほっとするおでんを摘みにのんびり過ごす。あぁ、酒場に浸る喜びがここに。

 

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お隣の方は半世紀通うという常連さん。おでん鍋と三代目、そしてテレビが見れる絶好のポジションで、毎日きゅっと飲むのだそう。毎日来て、ここで水戸黄門(TBS系)の再放送を眺めながら、スタッフと世間話をするのが日課という。私も40年後、そんな生き方がしたい。

 

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えびてんと赤巻き。どちらも金沢のおでんらしい具です。素朴だから手が抜けない、そんな言葉がぴったりくる、しみる美味しさです。

 

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日本酒は萬歳楽(石川県・白山/株式会社 小堀酒造店)のお酒のみ。本醸造から大吟醸まで多様に揃えています。1700年代創業のどっしり構える酒蔵がつくる銘酒は、天狗舞や菊姫、手取川ほど流通量は多くないですが、だからこそ旅先でこうして地場の肴できゅっとやるのが楽しいというもの。

 

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本醸造をお燗してもらい、おでんを追加しちびちびと。お隣の常連さんとすっかり仲良くなり乾杯。

何を食べているのですか?と聞けば「がんどう」と言われ、はてさて、ブリやハマチのような魚はなんでしょう。その場で調べてみれば、イナダ(ハマチ)のことでした。北陸はブリがよくとれるそうですが、出世し終えた”ブリ”は観光客などが食べる高価なもので、地元の人は「がんどう」を食べるのが日常なのだと教わりました。

 

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おでん鍋の横で名物スタッフのお姉さんが美味しいよーって顔で熱心に面倒を見ている「どて焼き」を3本もらってみました。金沢は東京との結びつきが強くなったとはいえ、歴史的に見ても金沢の文化圏。「どて」は定番のおつまみの一つ。甘くねっとりとした味噌を、ぐつぐつと薄い鉄板の上で暖めながら絡めていくこの界隈ならではの作り方。こんにゃくと豚バラが交互に刺さっていて、ホルモン(東京ならシロ)を使うそれと違いとてもあっさりとした味です。

ここに萬歳楽のおかんをきゅっと飲む。あぁ、ほっこり。店の方も常連さんも楽しそうに地元のお話をしてくださいます。お燗酒片手に、暖まる肴と人情。大人になったらこういうのが嬉しいね。

お店を出るときに「いってらっしゃい」と言われました。

ごちそうさま。

 

取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

黒百合
076-260-3722
石川県金沢市木ノ新保町1-1 金沢百番街 あんと
10:00~22:00(無休)
予算2,000円