【閉業】福島「川鳥」 円盤餃子で60年、安くて美味しい郷土の味は町の歴史

【閉業】福島「川鳥」 円盤餃子で60年、安くて美味しい郷土の味は町の歴史

2016年12月8日

福島の飲み屋街はJR福島駅から県庁のある阿武隈川沿いまで、およそ1kmの範囲に広がっています。お隣、仙台ほどの賑わいはありませんが、歩いてみると魅力的な店が多数。地方の県庁所在地ののんびりとした雰囲気が、ほどよく旅愁を感じます。

知らない街の暖簾をくぐる、酒場好きの旅は、夜に本領発揮です。

福島は、戦後満州から引き上げてきた人たちが始めた餃子屋が、街の歴史を伝える酒場です。試行錯誤のすえ誕生したと言われるフライパンにまんまるに並べて焼き上げる円盤餃子を出すお店が多い。

ところで、餃子といえば東京でも大阪でもお昼から食べる昼食が定番だと思いますが、福島は完全に酒場のひとつです。昭和30年代の高度経済成長期、地元の働く男たちが仕事終わりに餃子を肴に飲んできたという歴史が、いまも残っているそうで、多くの店が夕方以降から暖簾を掲げます。

今回取材に伺った「川鳥」も、そんな福島の餃子飲みの文化をいまに伝える老舗酒場です。奥まった入り口に紺の暖簾がカッコイイ。事前の情報がなくとも、この店構えならばきっとノンベエは飛び込むことでしょう。

店は奥に座敷、入ってすぐの場所には数席のカウンターがあり、ひとり酒はカウンターへ通されます。座敷では地元の企業や公務員の皆さんが餃子をつまみに会津の地酒「榮川」の熱燗をつぎあっています。畳の上に座布団敷いて胡座をかいて燗酒を交わす、こういう雰囲気がいい。

メニューはビールが大びんでキリン一番搾り、ハイボール(角)榮川で二合650円です。つまみは、餃子のほかにもししゃもやにしん、だし豆腐などがあり、どれもとっても大衆的な値段で食べさせてもらえます。

お店のお姉さんたちがすごくテキパキ動かれていて、「ちょっとまってね!餃子が時間かかるから待ってね!!」とずっと気にしてくれるのですが、大丈夫、今夜は日付変わるまで近所で飲むつもりだから(笑)

瓶ビール(大びん650円)をもらって、左手でもってトトトと注ぎでは乾杯。

店内に漂う餃子の香りは、もうそれだけで十分ビールが進みますが、お新香で間をつなぎつつほっとひといき。

餃子は親指よりも一回り大きいちゃんとしたサイズのものが20個で1,000円。ちょうどフライパン一枚分らしいですが、一人客用に半分の10個もお願いできます。500円でこんなに食べられるのは幸せです。

表面がやや揚げ餃子のようにパリパリと仕上がっていて、餡に近い部分のもちもちとの食感の差がおもしろい。具は肉汁系ではなくふわっとした軽い感じ。ニラは使わずキャベツと玉ねぎが中心です。かなり細かくミンチにされていて、口の中で溶けていくような印象。

餃子のトレは酸味がしっかりきいたポン酢風のもので、ラー油ではなく一味唐辛子で辛さを後付します。

福島の餃子は円盤焼き餃子が定番ですが、こちら川鳥には水餃子もあり、お店のお姉さん曰く「飲むなら水餃子よ」とのこと。出汁の効いたスープにぷかぷかと浮かぶ餃子は、焼きのものと同じだそうですが、別物のように食感が違います。スープをすって浮き輪のようになった餃子をレンゲでいくって頬張れば、スープが中から溢れ出し、危なくヤケドするところ(笑)

焼き餃子を水餃子のスープに浸して食べても美味しいし、その逆に水餃子も餃子のタレにつけても味が違って美味しいよと、優しいお姉さんの解説。それを聞きながら、猛烈な勢いで餃子・ビール・餃子・ビールと繰り返しています。

榮川を飲んでのんびり過ごすもよし、ちゃきちゃきと餃子とビールの定番すぎる組み合わせに浸るもよし。慌ただしい感じはなく、東京で言えばもつ焼き屋的なポジションにある福島の餃子酒場。ほかにもいろいろお店があるから巡ってみたら?と案内をいただきました。

福島の餃子飲みの歴史は古いけど、隣の県にPRではすっかり負けちゃっていてね…と聞きます。

街の歴史をいまに伝える飲み屋「川鳥」。冗談を言うのが好きなおちゃめな大将や、元気で優しいお姉さんたちが伝統を守っています。

福島で飲み歩く際は、お立ち寄りになってみてはいかがでしょう。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

川鳥
024-522-4926
福島県福島市置賜町4-28
17:00~22:00(日祝定休)
予算1,500円