奥沢で大衆酒場といえば「さいとう」です。昭和20年台からこの地で営業を続けて60年以上、いまも変わらず品質のよいもつ焼きを提供している愛され酒場です。住宅街の酒場といえば、都市部で働いた人が帰ってきてから飲みに行くので賑わう時間はやや遅いものですが、ここは違います。17時の口開けと同時にまっていましたと常連さんたちがカウンターに座っていき、テーブル席も含めて18時にはほぼ満席になります。
黒い外観に白い袖看板。清くきりっとした外観は、店主の姿勢を表しているかのよう。店内にもテレビやラジオなどのBGMになるものはなく、パチパチと音を発てているやきとり台の火が奏でる音色とお客さんの注文や会話が静かに流れています。
やっぱりこの街が好きだから、今日もなじみのこの店で、ぐっと一杯。奥沢は東急目黒線の駅で、華やかなイメージのある世田谷区において、旧目蒲線時代からの街には庶民的で下町に近いムードも漂っています。この街が好き、というのは私も同じ。
角がまるくなるほど使い込まれた厚い一枚板のテーブルに、カウンターには足乗せの棒がすっと通っています。古くから続く酒場ならではの造りが今に残っているのは嬉しい。それも、奥沢にあるというのがいいですね。
駅からわずかな場所にあり、奥沢駅そのものも東急電鉄の現業における重要な拠点で、目黒線の車両基地も併設されています。そんなことから、ここを愛する電鉄の人も多いと聞いたことがあります。
おつかれさまの一杯は瓶ビールが人気です。生ビールでアサヒが、瓶ではキリンとサッポロが用意されています。キリンは界隈ではめずらしくクラシックラガーです。ととっと注いで、それでは乾杯。
串は100円で二本単位。すぐでるおつまみも300円くらい。お通しはない。毎日だって通いたくなる嬉しい値段。いま、せんべろの新店舗が続々と登場していますが、いやいや、古くからずっと続いている酒場だって十分に日常価格なのです。暑いなか、馴染みの店の暖簾をくぐって、瓶ビールと冷奴でまずは落ち着く、そんな生き方っていいと思いませんか。
鶏つくね団子は2本で330円。ビアタンの大きさと比較してもお分かりの通り、なかなかの大きさです。団子という響きがいいじゃないですか。きりっとした味のタレと焼台で滴れる肉汁によって燻されるこんがとりした食感と風味が格別です。
外はまだ明るい。差し込む明かりに照らされて、なお一層おいしくなるやきとりにキリンラガー。
カシラ、レバ、シロ、タン、ハラミ、ガツなど、やきとりといってもメインの串はどれも「やきとん」です。七味もありますが、練からしをぐっと塗ってぴりりとした刺激をかすかに感じながらぐっと頬張る。すかさず余韻を逃さぬようにビアタンを持っていく。これこれ。いつもそこにある酒場の幸せ。
ちょっぴり強面の大将と若い店員さんで切り盛りする空間。焼き台で真剣な眼差し、丁寧な串打ちされたもつ焼きからも伝わってくるまじめな大将ですが、「実は結構フレンドリーなんですよ」と一緒に飲みに来た相手は話します。
奥沢駅からも近いし、自由が丘から散歩でやってくるにも十分な距離。地元の方はもちろん、お仕事帰りにちょっと寄り道してみてはいかがでしょう。きっとこういう酒場、好きだなと思うはずです。
ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材協力/キリンビールマーケティング株式会社)
さいとう
03-3727-6233
東京都世田谷区奥沢4-27-12
17:00~23:00(日定休)
予算2,000円