居酒屋を日々巡り、そこで飲む人たちと出会い話をしていると必ず聞こえてくる「お通しの良し悪し」という話題。私の知り合いの飲兵衛も、あの店はお通しがあるからどうも…なんていう人もいます。確かにお通しは自分で選べないし価格も不明瞭だから「こんなもので」「こんな値段」というものに出くわすことも確かにありえます。
でも、私は居酒屋にお通しはやっぱり必要だと思うんです。お客さんが選ぶのではなく店が決める。うちにきたらコレを食べてくれ!って出してくるのだから、本気でお客さんを満足させようと考えている店の店主ならばそれ相応の本気というものがあるに違いないからです。チェーン店がエクセルの計算式で叩きだした原価率の微調整に使うような「金」ありきのものではなく、「人」ありきのお通しが食べられるのならば、むしろ私はお通しを歓迎したいと思うのです。
それと、お通しという言葉よりも私はぶっきらぼうに「突き出し」という方が好き。こっちのほうがなんだか大将の心意気が感じられそうだと思うから。
さて、そんな”突き出し”を語る上ではここを外すことはできません。京王井の頭線の各停のみ停車するローカルな街 東松原にある赤提灯のお店「三木松」です。
入り口にある電照看板に「前略○○様、お気軽にいらっしゃい」と書かれているのが素敵。常連でも一見でも関係なく、どうぞどうぞという言葉が込められているような気がします。
午後7時頃開店と遅めの口開けは、都心で働いた人が地元に帰ってくる時間に合わせているのでしょう。カウンター席とちょっとした小上がりのコンパクトなお店で、白衣姿がきまった大将が迎えてくれます。
ビールは生はなく瓶のみ。昔からずっとサッポロビールを置いているので昔のロゴが入った懐かしのビヤタンが瓶ビールと一緒に登場します。瓶ビールがさっと出てきたら、そのまま受け取ったてを傾け、コテっとタンブラーの縁に瓶の口をあててとくとくっと注ぐ動作。軽くビールを眺めて一人乾杯。
店の雰囲気がいい、瓶ビールなのがいい、大将の雰囲気もいい、常連さんのしっぽりとした飲み方もいい。演出でつくられた大衆酒場ではない、ごくありふれた、でも今では貴重となったこの昭和酒場なムードがそのまま生きています。
突き出しの話に戻しましょう。ここの突き出しは刺身です。いつも変わらずまぐろと鯛の二種類。品書きに刺身があるわけではなく、この突き出しにのみ刺身が存在しています。そして、この刺身が毎回必ず美味しい。思わず美味しいとつぶやくと、もくもくと料理を作る大将がどことなくにこっとしたような気がする。こういう突き出しは大歓迎です。店の本気を最初から見せつけられると、次の料理への期待も高まるというもの。
初秋から初夏まで、ほとんど通年で置いているおでんがここの看板料理。味付けは関西風で色は白い。醤油ではなく出汁で楽しむおでんには、大好物のちくわぶやガンモが浮かんでいます。
120円からと普段から通える価格のおでん種。しゅうまいからはまぐりまで種類が豊富で30種類。
お麩は新潟のくるま麩というのがまたいい。関西だしなので黄金色になっていない真っ白なちくわぶも外せない存在です。今日はじゃがいもなんかも選んでお腹にそこそこ入れようかなというチョイス。日替わりメニューはおでんではなく、一手間かけた大衆割烹的な品書きが並びます。鯛カブト煮やうるいのおひたしなど。価格は400円前後と庶民的です。
三木松の三木は大将の出身地である兵庫県の三木市から、そして松は松原の松からとのこと。常連さんの感じもよくて一見でもこういう酒場にそまれるタイプならばきっと楽しめるはず。
暖かな気分になってきたら、そろそろ日本酒に行きましょうか。品揃え豊富で日本酒好きもきっと満足できるでしょう。
やっぱり、突き出しが美味しい店は正解だと思う。
ごちそうさま。
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(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
三木松
03-3325-0954
東京都世田谷区松原5-3-13
19時頃~23時半頃(木定休)
予算2,300円