長崎へやってきました。ちゃんと飲み歩くのはこれが初めて。「ちゃんと飲む」という表現に、いささか違和感があるかもしれませんが、本気で飲み歩くということで。長崎といえば港町です。
長崎は英国スコットランド出身のトーマス・ブレーク・グラバーなど多くの商人が鎖国後の日本に住み、貿易や近代日本に繋がる産業の立ち上げをおこなってきた産業の街。グラバーはジャパン・ブルワリ・カンパニーというビール会社を設立し、その後のキリンビールとなりました。観光名所として有名なグラバー邸には、麒麟のモデルとなった温室の狛犬が今も保存されています。現代の酒場に欠かせない存在である麒麟を産んだこの地、ぜひとも巡ってみたかったのです。
東京の酒場は詳しいと自負していますが、長崎はまだまだ。ということで、今回は強力な助っ人として、キリンビールマーケティングの長崎支社長と共に巡ります。
一軒目は、事前の調べでぜひ行ってみたかったやきとりの店「花山」です。坂の街長崎、こちらのお店も斜面に建っています。
冬はもつ鍋が人気。店内の白い暖簾と小上がり、そして高倉健の古い麒麟のポスターに振り子時計と、実に良い風情です。
カウンターにはずらりと今日の食材が並びます。下ごしらえが済んだ食材が、いまかいまかと出番を待っています。自家製の長い燻製チーズなど、ご主人のこだわりは営業時間ぎりぎりまで仕込みぎりぎりまで時間いっぱいに行われています。とにかくこだわりが強い。
牛肉やホルモン類は五島黒毛和牛を使用しているそうです。鮮度第一で、長年の付き合いで仕入れる抜群の肉。タンテキはなんとこのままのサイズででてきます。もつ焼きのいつもの気分で「タン」と注文して、これがでてきたら驚いてしまいますね。価格はこんなに大きい銘柄牛の牛タンにも関わらず1,100円と驚かされます。
では、キリンクラシックラガーで乾杯。この空間に瓶ビールの佇まい。老舗酒場好きならしびれる光景ではないでしょうか。
メニューはこの通り、「やきとり」の専門店らしい絞られた内容です。串は1本から注文でき、1串100円と庶民的です。食材一つ一つにご主人のこだわりがあり、話を聞いているだけでも、それを摘みたい気持ちでビールが進みます。もつ鍋のしめがちゃんぽんめんというのが長崎郷土感を一層高めてくれます。
ドリンクはビール、本格焼酎、日本酒にサワーと定番の顔ぶれのみ。
酢モツ(小・320円)が、とにかく驚かされます。徹底的に下ごしらえをしたモツは、かなりの手間がかかっているに違いありません。独特なくせは一切なく、とにかく旨いの一言。焼いてタレで味をごまかすのではなく、ポン酢とネギ、きくらげだけで食すというものに感動しました。
仕事帰りに、さくっと立ち寄りこれをつまみにキリンラガーをちびちび飲み進めていくなんていうアフター5ができたらなんと幸せなことか。
目の前の冷蔵ケースで、いかにも食欲をそそる佇まいの「だんご」があったので、どうしても食べてみたく、名物のシロとともに注文。焼台で手際よく焼いてくれるお姉さん。焼き方の腕はよいようで、焦げは最小限に、ジユーシーな仕上がりです。やきとりが冷めないように七輪で提供してくれるのが嬉しい。
さっきまで串打ちしていた、朝仕入れたばかりで何時間も下ごしらえしているという、ご主人渾身の「シロ」から。口に入れるととろけていく。残るのは優しい旨味だけで、そこにビールをきゅっと合わせていけば笑顔になります。
だんごもこりっとした食感があり、肉汁もでてくる。ビール、ビール。
サガリも美味しいよ、とのことで、いただきます。脂っぽくなくあっさりとした味ながらやわらかな食感。
燻製チーズとトマトのホイル焼き。これも自家製チーズなのですが濃厚でとろける美味しさ。和製イタリアンでいい気分。
ピーク時は予約必須の人気酒場「花山」。もつ焼き・やきとりは日本各地で食べ歩いてきていますが、ここの串も絶対食べておくべきものだと思います。まだまだ知らない庶民の美食があるんだなと感じ、飲み歩きに気合いが入りました。
長崎の中心部に位置し、県警本部や県庁、大きな企業の事務所が多い場所にあり、地元のサラリーマンに愛される酒場。観光ガイドに載っていないかもしれないけれど、ちゃんぽんだけで長崎の夜をしめるのはもったいない。地元の老舗で乾杯しませんか。
本当に美味しかった…また行きたいなー。ごちそうさま。
(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材協力/キリンビールマーケティング株式会社 九州旅客鉄道株式会社)
花山
095-825-1535
長崎県長崎市万才町10-20
17:00~24:00(日祝原則定休)
予算2,400円