渋谷『麗郷』冬の百軒店で「酔蟹」を啜る！創業70年 台湾料理の名店は美食揃い

100年に一度と言われる再開発で、景色が変わりゆく渋谷。ですが、道玄坂を登り、百軒店（ひゃっけんだな）の入り口近くへ路地を入ると、そこには昭和40年代から変わらぬ赤煉瓦の建物があります。 台湾料理の名店『麗郷』です。 店内に一歩入れば、目に飛び込んでくるのは厨房に吊るされた無数の腸詰め。今宵は少し昔の台湾食堂に迷い込んだような熱気の中で乾杯しませんか。

飴色の腸詰めが迎える、熱気あふれる台湾酒場

『麗郷』の創業は昭和30年。いまはなき恋文横丁で誕生した台湾食堂です。昭和40年、再開発で恋文横丁は取り壊されてしまいましたが、当時から大人気だった麗郷は百軒店へ移転。現在のお城のようなレンガ造りの店になりました。

重厚な扉を開けると、そこは「熱鬧（ルーナオ / 賑やかで活気がある）」の世界。

まず視線を奪われるのは、ライブ感あふれるオープンキッチンの頭上に、まるで暖簾（のれん）のようにズラリと吊るされた自家製の腸詰め。

飴色に輝くその光景は、麗郷のシンボルであり、訪れるノンベエたちの食欲をググッと刺激します。厨房から響く中華鍋の音、飛び交う台湾語のオーダー、そしてお客さんたちの笑い声が混然一体となり、心地よい熱気を生み出しています。

1階はカウンターと円卓が中心。混雑時は相席になることもありますが、この「袖振り合うも多生の縁」といった距離感もまた、老舗酒場の醍醐味です。

活気あふれる円卓で、名物料理を次々と

席に着くなり、まずは瓶ビールをお願いしました。麗郷のビールは、同じ渋谷区内でビールを製造してきたサッポロを変えることなく取り扱ってきました。よく冷えたサッポロ黒ラベル（瓶ビール）。赤い文字で店名が入った小ぶりのビアタンに注ぎ、喉を潤します。

飴色に輝く自家製の「腸詰め」

まず注文すべきは、カウンターの上に暖簾のように吊り下げられた「煙腸（腸詰め）」（990円）です。

艶やかな飴色。口に運ぶと、パリッとした皮の食感とともに、凝縮された肉の旨味と脂の甘みが弾けます。ほんのりと香る中華スパイスの風味が、黒ラベルの苦味と絶妙にマッチします。添えられた白髪ねぎと香菜（パクチー）、そして特製の辛味噌タレをつければ、もう箸が止まりません。

冬の贅沢、上海蟹の老酒漬

麗郷の冬といったらコレ！「酔蟹（上海蟹の老酒漬）」（3,850円）です。10月頃から冬にかけての期間限定メニュー。生の上海蟹を紹興酒ベースのタレに漬け込んだ、いわゆる「酔っ払い蟹」。

ねっとりと濃厚な内子（卵）と、甘みのある蟹の身を、指先を汚しながら夢中で啜ります。贅沢品ですが、シェアして食べたくないほど酒を誘う絶品料理です。

この濃厚な味を受け止めるのは、やはり紹興酒。常温でいただきながら、口の中に広がる芳醇な香りを楽しみます。

プルプルの食感が楽しい「バーワン」

麗郷の名をさらに有名にしたのが「肉圓（バーワン）」（715円）。
台湾の代表的な屋台料理（小吃）で、サツマイモの粉などで作った半透明の皮で、肉餡を包んで蒸し揚げたものです。かつてアニメ映画『千と千尋の神隠し』に登場する不思議な食べ物のモデルではないかと噂され、一躍脚光を浴びました。

箸で持ち上げるとずっしりと重く、独特の弾力があります。モチモチ、プルプルとした食感がたまりません。中には豚肉やタケノコ、椎茸がゴロゴロと入っており、甘辛い餡かけソースとニンニクの風味が食欲をそそります。

シメは王道のやきめしと、具沢山のやきそばで

お酒が進み、会話も弾んだところで、食事メニューへ。まずは「蝦仁炒飯（えび入りやきめし）」（1,100円）。頂上にプリプリの小海老が鎮座する、麗郷のアイコン的メニューです。

ラードの香ばしい香りを纏ったお米は、パラパラとしっとりの中間のような絶妙な炒め具合。塩気は穏やかで、海老の甘みが引き立っています。

そしてもう一品、「什景炒麺（五目入りやきそば）」（1,100円）。

「五目」と言いつつ、豚肉、野菜、海鮮に加え、内臓（モツ）が入っているのが麗郷流。

太めの手もみ麺は、一度茹でてから炒められており、モチモチとしたコシがあります。濃厚な醤油ベースの餡が麺によく絡み、内臓肉のコクが深い旨味となって押し寄せます。

変わらない渋谷の熱気

お腹も心も満たされて店を出ると、道玄坂の夜風が心地よく感じられます。再開発で真新しいビルが増えていく渋谷ですが、ここ麗郷には、戦後の闇市から脈々と続く「都市の大衆食の底力」が今も息づいています。

煉瓦の壁に染み込んだ数々の夜の記憶。飾らない接客と、変わらない味。仕事帰りに仲間と円卓を囲み、大きな声で笑い、美味いものを食べる。そんな当たり前で贅沢な時間が、ここにはあります。

店舗詳細