【閉業】山形「甚兵衛」 四季折々山の幸をつまみに、駅前でしっぽり土地に浸る

【閉業】山形「甚兵衛」 四季折々山の幸をつまみに、駅前でしっぽり土地に浸る

2017年11月14日

1973年(昭和48年)創業の「いなか料理甚兵衛」は、山形市街で飲むならば基本の立ち寄り処。JR山形駅から徒歩2分の近距離で、出張や旅行者にも嬉しいお店です。

典型的な山形料理を揃え、酒はご当地の男山や銀嶺月山を並べています。店構えからして東北の酒場の味わいが溢れていますが、店の中も絵に描いたような東北酒場。山形でなにか土地のもので静かに飲みたい、そんな人にはうってつけです。

 

店先には基本の料理がかかれているのでわかりますが、3千円もあれば山形の味を満喫できる安心のお店。客層は半分が地元の人で、あとは出張で訪れる常連客。そう、出張できた人が二度、三度と通っているのがおもしろい。

 

東北の酒場に多い、入ってすぐ下足入れがあるつくり。ふかふかの山吹色のカーペットを足の裏で感じつつ、シンシンと冷え込み足に伝わった冷気に開放されます。

カウンターには酒燗器。ほくぽくと音を立てて店をやさしく温めています。緊張感が溶けて、ほっとするこの感じ、北日本ならではの感覚です。

 

お店は60歳以上のベテランのお姉さんだけで切り盛りしていて、まさにおかあさんの店。山形弁全開で、地元の常連さんを交えてわいわい盛り上がるも何を言っているか聞き取るのが大変で、そしてそれがなにより楽しい。

遠くから出張のたびに足を運ぶ常連さんたちのボトルがずらり。おかあさんたちのお店がいかに親しまれているか伝わってきます。

 

料理は500円前後がほとんどで、季節の料理が中心なので時期によって大きく変わります。変わらないのは鳥焼やいなご、そして山形名物の「いも煮」に「山形生そば」など。えごやとろろなど山の幸でちゅっと一杯、想像するだけでたまらない。

 

ビールはアサヒ、キリン、ヱビスと3社揃い。お通しとともに、瓶のヱビスをもらって、では乾杯!

 

突き出しはナスとひき肉と一緒に煮込んだもの。山形は牛、豚、鶏食が盛んで郷土料理の多くもそうですが、こういうさりげない小鉢も美味しいのです。

 

いなごはビールのつまみにぴったし。でも、やっぱり日本酒が欲しくなるなぁ。お酒は大きいのを上燗でお願いします。

 

料理の華はかなわないけれど、紅葉もだいぶ進み冬の足音が聞こえる山形で、土地の定番をつまみにちびちび飲むお酒は素晴らしいもの。どこか寂しく、でもそれを当たり前に受け入れ笑って吹き飛ばす山形のおかあさんたち。気づけば杯も進んで、この街が第二の故郷のように思えてきます。

 

さて、山形の肉食文化の王様はいうまでもなく米沢牛。それをふんだんに使用した「いも煮」はこの店の看板料理。写真は少なめで頼んだもの。それでもたっぷり牛肉が入り酒の肴に十分な量。

山形出身の人は友達同士で「いも煮会」はあたりまえだそう。味は味噌だったり醤油だったりと地域によって変わりますが、基本はこのちょっぴり甘い醤油味ですね。

 

ホテルはすぐ近くだから、今日はここで沈むまで飲もう。お酒をもう一本。そうこう飲んでいい気分。

 

店には創業当初の写真が貼られています。雰囲気はいまもこのまんま。お姉さんはより魅力を増して、お客さんの雰囲気もこう。飲んで笑って、心を温めて。

土地の料理と酒で、しっぽり飲めるいい酒場。話題性のあるお店もよいけれど、郷土に染まるならばこちらかな。ぜひ立ち寄ってみてください。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

甚兵衛
023-642-5701
山形県山形市香澄町1-4-1
16:00~23:00(不定休だいたい営業しています)
予算2,800円