キンミヤ焼酎はここで造られている!宮崎本店とは

キンミヤ焼酎はここで造られている!宮崎本店とは

2017年3月16日

東京の酒場を愛するものならば、誰もが一度は飲んだことがある「キンミヤ焼酎」。ですが、あまりキンミヤ焼酎の”育ち”を知る人は多くないかもしれません。

ときおり「宮崎の会社でしょ?」や、「東京の会社だと思っていた」というお話も耳にしますが、キンミヤの故郷は三重県四日市。

下町の名脇役ではありますが、実は遠く離れたお伊勢さんの近くで製造されています。今回は、そんなキンミヤの里、三重の宮崎本店をご紹介します。

ただなんとなく割り材を入れて飲んでいるよりも、その背景まで知るとちょびっとだけ美味しさも変わるかも?

 

キンミヤ焼酎を製造する株式会社宮崎本店は、三重県四日市市にある総合酒類メーカー。ビールを除くすべてのアルコール飲料の製造免許を取得しているなんでも作れる会社です。

本社のある地は2005年の市町村合併により四日市市となりましたが、それ以前は楠町(くす)と呼ばれる町でした。名古屋から近鉄電車で約50分。特急と普通電車を乗り継いでやってきました。

最寄りとなる楠駅はとってもローカル。駅前にはちょっとした居酒屋があるだけ。

ですが、実は楠はその昔、「灘の日本酒、楠の焼酎」と呼ばれていたくらいの焼酎の産地であり、鈴鹿山系の清い伏流水がふんだんに湧き出す酒造りに適した土地でした。全盛期には30もの蔵があったと聞きます。

楠の焼酎と呼ばる理由は、宮崎本店のキンミヤ焼酎だけでなく、線路を挟んで隣接する形で宝酒造の楠工場もあることから、合わせてみれば相当数の焼酎が製造されていることになります。

 

駅から宮崎本店までは旧街道を15分ほどの距離。一般家庭にも井戸があるなど、湧き水とともに暮らしがあることが歩きながらも感じられます。

しばらく街道を進むと、これぞ酒蔵といった感じの風景が広がります。ここが宮崎本店です。約一万坪の敷地で大正から昭和初期にかけての建物を今も使い続けていて、6棟が文化財建造物に指定されています。

 

右も左もすべて宮崎本店。そんな道を進んだところに本社屋があります。

 

建物の入口には文化財の銘板がはいります。1846年創業、現在三重県で一番の出荷量を誇る酒造です。

 

 

公道を挟む形であちこちに製造、貯蔵の施設があり、古い蔵を大切に使うことと、効率の良い生産体制を築くという二極の性質をうまくバランスを取るのが難しいのだそう。それでも、”人も心、酒も心”という方針で、地道に美味しく効率の良い酒造りに挑戦されています。

 

キンミヤの故郷ではありますが、歴史ある蔵で三重で一番の生産量を誇る日本酒蔵でもある宮崎本店。三重の人たちには、「宮の雪」の会社として知られています。

 

四日市や鈴鹿、伊勢などでは飲食店で定番の酒として取り扱われている「宮の雪」は、普通酒から吟醸酒までバラエティ豊かに揃います。

 

超軟水の伏流水でつくる宮の雪は辛口寄りに製造していても、軟水の効果でまろやかで甘味を感じるという特長があり、キンミヤ焼酎と同様、水の力によって独特な個性をもった日本酒です。

 

また、甲類のキンミヤが主力商品ではあるものの、乙類、つまり本格焼酎も多数製造しており、樽内熟成を行うウィスキーに近いような銘柄まで、その種類は多いです。

「え、これも宮崎本店の焼酎なの?」と驚くかもしれません。

 

キンミヤ同様、大手の流通経路にのっていることが多いので、見つけたらぜひお試しあれ。キンミヤだけが宮崎本店の実力ではないというのが、味覚で感じられるはず。

 

おすすめは時乃刻印。米焼酎の原酒を3年間樽で貯蔵、熟成させたもので、超軟水の効果はここにもでていて、優しく調和の取れた熟成焼酎です。

 

日本酒蔵の反対側がキンミヤ焼酎の生産設備。連続蒸留装置でつくられる甲類の生産設備はシンプル。

さて、ちょっと話は逸れて、なぜ本格焼酎が乙で、連続蒸留が甲なのかという話。乙類は単式蒸留と呼ばれ、基本的にはもろみを一回だけ蒸留したもの。正確には、乙類と本格焼酎はイコールではないのですが、難しくなるので知りたい方は詳しいサイトへ。甲類は連続蒸留の名の通り連続的に何度も蒸留するもので純度が高いアルコールが次々製造されます。甲乙という呼び名は税制上の扱いからつけられました。

甲類はプラント的なつくりなので華はなく、製造工程も各社似たり寄ったりになりがちなので味の違いは”水”の影響が大きい。キンミヤ焼酎の味の根幹は水で間違いありません。

 

このタンクが仕込み水や工場内のあらゆる箇所で使用されている水を供給する設備。ここから地下150mに井戸が掘られていて、毎日1000トン以上の水を組み上げています。

 

蒸留、加水がされた出荷前のキンミヤ焼酎は敷地内の巨大なタンクで寝かされて、それから出荷となります。このタンクには一生かけても飲み干せない量のキンミヤがつまっています。

連続蒸留はもっと機械的に次々製造されて瓶に流れていくのかと思いきや、こういう寝かす工程など手間が介在しているのが”酒”らしくていいですね。

 

道を挟んだ反対側が日本酒蔵。本醸造などの大量出荷系の銘柄とは別に大吟醸などのハイクラスを製造する蔵が別棟にあります。

 

こちらがその蔵。出荷量の多い銘柄はオートメーション化が進んでいるのですが、こちらは蔵人によってひとつずつ手作業の工程を経てつくられています。

 

宮の雪の文字と晴れた鈴鹿の空がきれい。

 

宮崎本店の杜氏は代々南部杜氏が派遣されてきましたが、近年にはいってからは宮崎本店の社員自身が杜氏から教えをうけて、杜氏として活躍されています。それでも、現在も南部杜氏の方による指導は続いているのだそう。

 

古い蔵を駆使して、大量に貯蔵されているタンクは壮観。日本酒は寝かす工程に温度管理が厳しく、ハイクラスの酒づくりには杜氏をはじめ蔵人が寝ずの”おもり”がされています。

 

タンクのリッター表示は酒税に関して義務付けられたもの。同じ形状のタンクでも、微妙に容量が違います。尺貫法からメートル法に変更された昭和34年以降のタンクが並びます。最終出荷時は、いまでも一升瓶が業界の計算の基準ですし、石高(こくだか)で話をするので、いまだ数字が統一されていないのはおもしろい。

ですが、やっぱりお酒はリッターで話すよりも、一升瓶やビールは大びん換算(大換なんて呼びます)のほうが味があるかもしれません。

 

こちらはオートメーション化された最新の生産設備。平成に入ってから作り手の減少に対応すべく、新しい蔵を建てて大規模な清酒製造設備を導入した宮崎本店。

 

こちらは酒米に麹をふりかけているライン。ほかにもお見せしたい他の酒造会社が導入していない設備も多数ありましたが、ここまで。

 

先程のハイクラス用に使われている昭和の設備と比較にならないほど容量の大きな平成のタンク。密閉されているとはいえ、それでも蔵には美味しい香りが充満しています。

建物につけられた御札は、やはり京都の松尾大社でした。また、宮の雪の”宮”は、伊勢神宮の意味でもあることから、伊勢神宮のお守りもあります。

 

キンミヤ焼酎にかかれている印象的なキッコー宮は、宮の雪には描かれていません。この印は、宮崎本店の焼酎のブランドを表しているもので、昔はキンミヤだけでなく、クロミヤというものもありました。

三重で生産量の多い酒造とはいえ、連続蒸留装置は大変高価なもので、酒造大手でなければ手が出しにくいものだったそうです。そんな甲類を宮崎本店が社運ををかけて導入したときには、様々な意見があったとも聞きます。

社運をかけてつくるお酒、売れて欲しいという思いから”金”の宮で、キンミヤの名が誕生。楠から船で運ばれ、東京中央区・新川で水揚げされ、東京へ運ばれます。すっきりした味の良さが評判となり、いまの下町の名脇役のポジションへと育っていきました。

 

宮崎本店が社運をかけて取り組んだ連続蒸留の焼酎、キンミヤ焼酎。その流れはいまも続き、多くの人たちに愛されていると思うと、やっぱりいつもの酎ハイが、ハイサワーが、ホッピーが、バイスが、下町ハイボールがちょびっとだけ特別に感じられませんか。

 

キンミヤの味は鈴鹿の味。キンミヤの由来は、宮崎本店の覚悟と願いから。

歴史があるから今がある。酒場の楽しみは、そんな肉厚な背景も含めて味わうことではないでしょうか。今日も美味しい甲類で乾杯です。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ 取材協力/株式会社宮崎本店)