尾張一宮「日の出寿し食堂」 明治創業の堂々たる風格に浸る喜び

尾張一宮「日の出寿し食堂」 明治創業の堂々たる風格に浸る喜び

尾張の国の一宮、真清田神社があることが由来となった尾張一宮は、歴史ある街です。江戸時代のメインルートである東海道は名古屋から先は四日市、亀山を抜けて京都へ向かいますが、近代に入って現在の東海道本線となる鉄道が開通した1886年(明治19年)からは、今に至るまで主要交通の通る街として鉄道とともに歩み発展してきました。

とくに紡績が盛んで、その後は大手企業の工場も多く進出するなど、第二次産業で栄え、現在もその名残が随所に見られます。近年にはいってからは東海道線の速度が上がり、名古屋まで15分300円で移動できることからすっかりベッドタウンとなっています。

古くからある商店街には高層マンションが建つ前からの味わい深い店が多々あり、散策が楽しいです。

 

とくにおすすめのお店が「日の出寿し食堂」。1906年(明治39年)創業という老舗です。二次産業時代の名残か、現在でも午前中から営業し、昼時でも日本酒やビールを傾けている常連さんで賑わいます。

 

店名こそ「寿し」ですが、お寿司は現在の品書きにはなく、大衆食堂の定番を中心とした顔ぶれ。ランチでは600円程度で定食があり、カツ丼まであります。それでも、やっぱりノンベエが優勢といった印象。

 

店の歴史を感じる「金露」は、1997年に惜しまれながらも廃業した金露酒造(大阪府・堺)の銘柄。現在は別の会社にブランドは引き継がれていますが、ここにある額はまさしく金露全盛期のもの。丼物、洋食物、煮魚と書かれたレトロ看板と合わせて、実にいい味がでています。

 

店に入るとすぐに料理が並ぶショーケースがあり、その奥にテーブルが数卓、奥が小上がりとなっています。家族経営で、若きご夫婦が暖簾を受け継ぎ守っています。二階にも個室があり、この日も地元の寄り合いかなにかでロマンスグレーが似合う旦那衆が飲みにきていました。

厨房から漂う元気な食堂特有の醤油と味醂と油の匂いがふわっと漂い、内装の渋さと相まって空間に浸るだけで幸せになります。

ビールは昔から麒麟。生ビールは大ジョッキ800mlで840円。大びんも500円台なので、食堂飲みとしてちょうどいい値段でしょうか。こんなにもキリンクラシックラガーが似合うテーブルもめずらしい。乾杯!

 

ビアタンをくいっと飲み干したところで、今日のおつまみ選び。天ぷら、焼き魚、煮魚、刺身などが出番を待ちます。刺身も含め、どれもボリューム満てんで、労働者向け食堂の名残を感じます。天ぷらなんて、キスやなす、舞茸など山盛りで220円。日本酒(白鹿)とあわせて、ちびちび飲む昼下がりなんて、いいなー。

 

どて煮(350円)はもちろん赤味噌。甘く旨味のつよい名古屋味はビールが進むこと間違いない。もちもちのモツに濃厚な味噌が絡み、一口一口がお酒を求めてきます。

 

甘辛く煮込んだキンカンもビールと好相性。料理は300円前後がほとんどで、注文してから調理してくれる料理も豊富です。お腹が空いているときにきて、あれこれ注文したとしても、2,000円には届かなさそう。

冬場は鍋物もおすすめで、牡蠣鍋やあんこう鍋まで大衆価格で楽しめます。

 

街の歴史をいまに伝える場所は史跡だけではありません。今年で111年目を迎えた寿しという名の食堂飲み屋だって、立派な街の財産ではないでしょうか。

 

新しくなった尾張一宮駅。駅前も再開発されて街の風景は大きく変りましたが、まだまだ素敵な空間は残っています。新幹線や新快速で通過するだけではなくて、たまには東海道線の途中駅で下車してみてはいかがでしょう。

歴史のある街には、きっと歴史ある酒場がありますから。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

日の出寿し食堂
0586-24-5047
愛知県一宮市本町3-4-1
10:30~14:00・15:30~20:30(水定休)
予算1,800円