東京の下町で誕生したと言われている酎ハイ。もともとは戦後の混乱期に飲まれていた粗悪な焼酎を美味しく飲むための工夫として誕生したと言われています。
ただソーダを入れるだけではとても飲めたものではない。でももっと飲んでもらいたい。それで考えた居酒屋はシロップ屋やドリンク製造などの街の中小企業と手を組んで酎ハイを美味しくする液体を開発します。
古いお店はそれぞれ独自のレシピがあり、そのお店オリジナルの酎ハイの味で他店と競ってきたそうです。「あの店のハイボール(ここでは焼酎ハイボール)は旨い!」、ただそれだけでも十分な集客になっていました。
これが下町を中心に独自進化した大衆酒場と酎ハイの歴史。ガラパゴスとでもいいましょうか。ずっと下町でのみ愛されてきたこの謎の焼酎ハイボールですが、それに目をつけた大手酒造メーカーはこの酎ハイの製品化に挑みます。
現在では業界では「RTD」と言われ、一般的には缶チューハイとしてコンビニに多く並ぶ日常的なアルコールドリンクとして日本中に広まったのでした。缶チューハイのチューハイは元をたどればウィスキーハイボールが飲めなかった時代に下町で誕生したこの焼酎ハイボールという言葉の略称というわけ。
甲類やスピリッツをベースにソーダアップしフレーバーを添加した多くの缶酎ハイは、それでも下町の昔ながらの焼酎ハイボールとは似て非なるものでした。
下町の焼酎ハイボールは、正直言って何味なのかわからない。ウィスキーっぽい味だけどウィスキーが当たり前に飲める現代でもなぜかこちらを飲みたくなるのだから不思議。
そうして、大手ビールメーカーがレモン酎ハイなどを一般化していくなか、結局下町の焼酎ハイボールはガラパゴスのままで残ります。
それでも、甲類最大手のあの会社だけはこの焼酎ハイボールを諦めていませんでした。
そう、ご存知「宝酒造」です。宝酒造はもともと焼酎ハイボールの原点と言われる鐘ヶ淵界隈に大変強い会社でして、宝の社員も愛してやまないこの飲み物の製品化は何度かの紆余曲折あってついに実現しました。
それが宝酒造が発売する「タカラ焼酎ハイボール」です。琥珀色をしたタカラ焼酎ハイボールは、まさしく鐘ヶ淵・八広などでみかけるあの味なのです。
そのタカラ焼酎ハイボールが参考にしたお店のひとつがここ「亀屋」です。亀屋の味はタカラ焼酎ハイボールと瓜二つ。女将さんも、「うちは宝さんとは長い御縁ですから。宝さんの味とそっくりでしょう?うちが原点なのよ。」と話してくださいます。
予め前割りされた宝焼酎と特別な琥珀色のエキス。これがなぜか角瓶で冷やされているのが亀屋流。焼酎もグラスも炭酸も冷えているから氷を必要としない。炭酸はもちろん地元のアズマ炭酸です。薄はりのグラスで目分量でつくってもぴったりになるのは職人芸。
煮こごりやニラ玉、焼き鮭、ポークウインナーなどなんだか懐かしいと感じる家庭料理がおつまみで、350円がほとんど。焼酎ハイボールも280円と大変リーズナブルで、ここで二千円以上飲むと倒れちゃいます(笑)
昭和の経済成長の時代をいまもそのまま残す下町の焼酎ハイボールをだす老舗。昔から何も変わらないということがいかに素晴らしいかを教えてくれる気がします。
道路の拡幅で建物は新しくなりましたが、昔の暖簾やカウンターはそのまま新店に移設されていて、昔のお店で飲んでいるときと変わらない感覚です。
日本酒もクラフトビールも話題ですが、本当に東京に根付いてきた「酎ハイ」にもたまには目を向けてみてはいかがでしょう。
ごちそうさま。
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(取材・文・撮影/塩見 なゆ)
亀屋
03-3612-9186
東京都墨田区東向島5-42-11
17:30~23:00(日・第2第4月定休)
予算1,500円